「君と僕の関係*1」、というタイトルで、AKB48メンバーブログの“コメント欄”のテキスト分析をしました。
さながら、「ファンレター2.0」、ですよ。すごい世界。ぞくぞく。
きっかけと背景
個人的に、アイドルブログの真骨頂はコメント欄だと思ってて、わりと眺めるのがすきです。甘い愛の言葉も熱い激励の言葉も、クラスの友達かよwってくらい軽くて近くて短すぎるコメントもまぜこぜで、あまりに混沌としていてうっとりします。すてき。距離感がめちゃくちゃ。
今、2011年(データとった当時)のアイドルとファンの関係を知りたくて、ブログの“コメント欄”だけで形態素解析をしました。あっち側の人たちの経営戦略やマネジメントの手腕は誰か偉い人がきっと分析してくれるから、わたしはもっとこっち側の、お祭に加担してる、一緒に踊らされてる人たちのことを知りたい。どんな人がいるんだろう、何を考えているんだろう、どんなことに心動かされて感動して泣いて気持ちをぶつけるんだろう。文字で。みんなに見られる場所で。あえて。
準備
ブログと言ってもそれぞれのメンバーで更新頻度はバラバラなので、2011年の選抜総選挙のあとの各自のお礼エントリを、とってきました。たいてい「応援ありがとうございました!」みたいな更新をしてるし、コメント数も多いし、ライトファンからディープなオタクの方までいるので。コメント欄だけを、上位15人のうち12人分、取得しました。除外した3人はそもそもコメント欄がなかったり(篠田麻里子さん、渡辺麻友さん)ブログ自体更新を怠っていたり(小嶋陽菜さん!!)でした。
さてさて、コメント、とさくっと言いますが、もうそれだけで膨大なテキストデータなんです。多い人は10万件近くついてます。あまりに多い場合はノイズが多いので消しているのですが(理由は次回エントリで)テキストデータだけで10Mを超える人もいます。今回対象にしたのは、少なくとも1人あたり8000件。たったひとつのブログのエントリで。すごい!わくわくしません?するよね?テキストデータ愛しいですね!!!
メンバーとメディア
まずはそれぞれのメンバーとメディアの結びつき、を調べました。
ファンがコメント欄で言及してる中で「テレビでいつも見てるよ!」「ブログ更新楽しみにしてるね」「来週の握手会行くからね」はやっぱり温度感が違いますよね。あえて本人の目に触れる(可能性のある)場所で具体的に触れられているのは、ファンからも女の子からも活躍の場として意識されてる場所のはずだよねという仮説です。
コメント欄全体におけるそれぞれの単語の出現率を出して、三角グラフで示しました*2。
どの頂点に近いところにプロットされたかが、それぞれのメディアとの結びつきの強さです。
総選挙1位の前田敦子さん、2位の大島優子さん、3位の柏木由紀さんが、それぞれ違う象限にいるのがおもしろい。名実ともにAKBの顔としてテレビに出まくるあっちゃん、ブログでファンサービス全開の優子ちゃん、無敵の握手(とセクシーなグラビア)でガンガン人気上げてきたゆきりん、がきれいに分かれています。他のメンバーも、ファンからしたらなんとなく納得感がある配置。あーやっぱり“美少女系”なこたちは視覚的にテレビ支持と結びつき強いんだなとか、おもしろキャラはブログ期待されてるんだなとか、AKBのファンっていうよりあなたのファンです!!って層が多いと握手会の引力が大きいのかしらとか、いろいろ膨らみます。
無意識か意識的かは別として、自分の「武器」にするメディアを、ファンを獲っていくためのツールを、ちゃんと持ってる感じがしますね。人数が多いからこそ、チャンスが平等じゃないからこそ、出てくる差異なのかもしれないしそうじゃないかもしれない。
メンバーとファン層
次に、人称代名詞です。
多くのメンバーが使ってるのブログはアメブロなのですが、そのコメント欄を見てて、ものすごく女の子が多いなーって思ってました。絵文字…は使えないんだけど、だからこそ、顔文字とか記号が多いのです。形態素解析しても♪とか☆とか絶対上位に出てくる。少しでも目立つように、大好きなあの子の目に触れるように、かわいい見た目にできるように。そんな気持ちを感じる。
で、コメント欄に含まれてる人称代名詞の比率を出して見ました。メンバーによる支持層の違いを出したかった。「俺」「僕」比較は、個人的に男性一人称の違いに興味があって…。「みんな」はあとから関わってきます。
円グラフは、青が「私」、オレンジが「俺」、赤が「僕」です(これ色変えたらよかった)(クリックすると大きく見ることができます)。
前田敦子さん、大島優子さんあたりの2トップになると、「私」の出現率は40%を超えます。かなり女の子支持が強い。さらに強いのは宮澤佐江さん(下段右端)です。50%超え!ショートカットで元気なキャラの子で。熱狂的な男性ファンももちろんいるのですが、「どんな順位でも私の1番はさえちゃんだよ!」と叫ぶ女の子たちがたくさんいます。
かわいい子たちは「俺」「僕」支持が相対的に高いなぁ、この子たちは男性人気なのわかるなぁとか。そしてそして、板野友美さんは「僕」より「俺」の出現数が3倍くらい多いんです!!やっぱりそういう支持層なんですね!!と思って感動した。楽しい。
メディアが結びつけるもの、喚起するもの
最後に、それぞれの「メディア」と一緒に登場することの多い単語について調べました。
テレビと結びつきが強い人称代名詞はやっぱり「私」です。何か直接的に購買につながっているかはわからないけど、テレビで映ると喜んで、選挙の映像で感動する。こういう層は今まで言われてた「アイドルヲタク」の文脈とはまったく別で、もっとカジュアルに触れて、友達のブログにするように軽い気持ちでコメントを書き込んでる。ハードルがとっても低くて、全然重たくない。かわいい!すき!って無邪気に叫ぶ女の子たち。
握手会、はやっぱり男性一人称との結びつきが強いです。「会いに行けるアイドル」の当初のコンセプトを体現している場所、お金を落とすという意味でクリティカルに影響力を持ってるのはここですよね。ある意味擬似恋愛的というか、「君と僕の関係」、1対1関係に持ち込めるほぼ唯一の場所。そこへの執着をあえてブログのコメント欄で、1対1じゃない場所で、書き込むんですね。
じゃあブログって、なんだろう。
とにかく、「みんな」の世界なんです、「○○ちゃんのファンの俺たち」。「一緒」「支え」って言葉がよく出てきます。「俺は君のことがすきだあああああ」はもちろんあるんだけど、「みんな○○ちゃんのこと大好きだよ!応援してるよ!」って言葉が、ものすごく、目立つんです。
「君と僕の関係」がメディアによって変容してて「君と僕“たち”の関係」になってる。絶対に返事も返って来ないし、そもそも数千件数万件に埋もれていくコメント群の中で本人に読まれているのかさえわからない。それでもその池の中に投げ入れていくモチベーションは、そこにあるんじゃないかなって思いました。つまり、本人に届けることと同時に、ファンとしての仲間意識の醸成です。2ちゃんねるの「住人」の概念に似ているかもしれない。アメブロのコメント欄は、ある意味掲示板なんです。コテハンの。女の子たちに向けた強い愛の言葉の集積地であると同時に、直接言葉をかわさないにしろ、コメント欄にいる他の人たちとのコミュニケーションの場所なんです。視界の隅にチラチラ入ってる。「みんな」応援してるんだ、っていう実感!お祭への加担ですよね、完全に。
投げっぱなしのブログが持つ「ソーシャル」
ソーシャル全盛の今、この規模でやるブログって、直接のインタラクションも生じないし、マネージャーにも検閲される不自由っぽいメディアに見える。でも、アイドルを考える上では全然オワコンじゃない、ネット戦略の中核にある意味はちゃんとあるのかもね、と思いました。
ブログの持つ「ソーシャル」はソーシャルメディアの「ソーシャル」とは違う意味なんですよね。別に真ん中と、女神と、本人とつながらなくたっていい。向いてる方向が同じ仲間を認識するための場所で。このソーシャル性はおもしろいなー、応援されるためのフックなんだなー。そしてこのタイミングで出現したGoogle+、の話もしたいのですがそれはまたの機会に。Google+で繰り広げられる毎日毎分のあれやこれやもとっても興味深いです。
最後の、「君と僕“たち”の関係」の出現について、もうひとつおもしろい現象があるのですが、長くなったので別エントリにします。ブログに出現する「聖地」の話です。もはや「聖地巡礼」は、ケータイでできちゃうんですよー。
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【追記:2012/02/06 14:20】
鋭いコメントたくさんもらえてものすごくおもしろいです。わかる範囲でお返ししますね。AKB48に興味ある人が必ずしも読むわけじゃないだろうと思って端折っている部分があったんですが、自分が疑問に思って生データに当たったところ、やっぱり突っ込まれますね!!
ここから先は個別具体的な言及になってくるので、そもそもAKB48自体に興味ない人には退屈な話だと思います、と事前に断らせていただきます…!
id:filinion
面白いなあ。でも、「私」=女性、と言われても、私も一人称「私」なので。「私」出現率が高いところは、女性+「私」系男子の支持が多い、という話ではないかと思う。
id:MagnesiumRibbon
私男だけど声優さんに見られる文章は基本的に一人称「私」だなぁ。人称の分析自体は興味深いけど男女への推論は無理がある
これはおっしゃる通りです、一人称で「私」を使う男性がいることはもちろん、人称代名詞は出現しててもそれが自称とは限らなくね?って部分もありました。
例えば、前田敦子さんは順位発表後のスピーチで「私のことは嫌いでもAKBのことは嫌いにならないでください」というセリフを叫んでいて、そこを引用してコメントをつけている人もいました。「私のことは嫌いでも、なんて言わないでいいよ!あっちゃんのこと大好きなみんながついてるよ!」的なことです。なので、人称代名詞から必ずしも男女が推論できるとは限らないっていうのは、そのとおりだと思うし悩みました。「私」表記だって「わたし」「ゎたし」「あたし」っていう表記ブレだって考えられます。
結果的にそれでも分析結果に含めたのは、12人でかなり分かれたから、それに尽きます。相対的に見て変化が大きいことは価値があるかなと思って。実際他の分析軸でボツにしたものは山ほどありましたし、ここまで如実に数値の差が出なかったらその1つになっていたと思います。
なので、断定系の口調でもし不愉快になられていたらごめんなさい。でもわたしも悩んだ部分だったので、ああやっぱり気付く人はひっかかる人はいるんだな、ちゃんと迷ってよかったなと、思いました。
id:boxheadroom
面白い記事でしたけれども、(更新少なめ)松井珠理奈→ブログ、(ブログ更新が極めて多い&握手人気高い)玲奈→テレビ ってあたりは活動とコメントする層のズレがあらわれてるのかも
松井珠理奈さんのお話。
そうです、彼女はブログの更新が少ないんですね。だからブログの象限に入って、しかも指数でいうと一番寄り方が強くてわたしも何回も数字確認しました。えっここに入るんだ!?と思って。まぁこういうときは生データでCtrl+F、です。「ブログ更新されてなかったみたいで少し心配」「珠理ちゃんの前向きなブログ見て、元気がでた!」「ブログ読んで、じゅりなの成長を感じて去年よりひとまわりもふたまわりも大きくなったんだなって思ったよ」などが見られました。
まず、彼女は総選挙当日にはブログを更新していないんですね。ちょっとタイムラグがあったので心配されているようです。その裏には、2010年に比べて2011年には順位が落ちたうえに(10位→14位)同じSKE48内では松井玲奈さん(11位→10位)にトップの座を奪われたという背景がありました。それから、AKBグループ内でテレビに出やすいとされるメディア選抜が12位までで、順位的に外れてしまったことで、「テレビ」への言及数が減って、相対的に「ブログ」の指数が上がったのかなーと思います。
あとは、ご指摘のように更新が少ないのでもっと書いてくれたら嬉しいな、的な言及もけっこう見られます。「他のメンバーのブログをよく読んで、ブログの書き方をくふうしたほうがもっとブログ読んでもらえるよ」とかいうアドバイス(?)も出てきたりします。更新頻度が少ないからこそ、こういう特別なイベントで強い言葉で更新されると「読んで泣いてしまいました」「感動しました」っていう反応になるので、出現数が多かったみたいです。今回はひとつのエントリだけでとってきてあるので、もう少し長期的に取得すると変化しそうですね。彼女に関してはわたしもちょっと意外な結果、と思っていました。
id:mahal
これ自体はすげー面白いのだけれど、「テレビ」クラスタに入ってる松井玲奈の握手会での圧倒的実力差(id:entry:78073093)、みたいなお話とかもあったりで、うーむ、と。
そして松井玲奈さんについて。
とにかく彼女、SKE48で人気が突出しています。握手会人気はもうダントツ!!!だし、そっち寄りなのかなーと思ったんですけど、長期的にコメントを追いかけるとそうなった可能性も十二分にあるのですが、とにかく今回こうなった理由も、Ctrl+Fで迫ってみましょう。
やってみると2つの理由で彼女がこの象限に位置することがわかりました。
まず1つ目は、総選挙の開票の一部をテレビで生中継していたこと。そこで10位の松井玲奈さんがコールされる瞬間が映ったようです。「家でテレビを見ていたら、ちょうどれなちゃんの所で笑顔で「ありがとう」を言っていて、すごく嬉しい気持ちになりました♪」「テレビの前でハラハラドキドキしてました」とかそういう感じです。全員の開票がテレビ中継されてたわけじゃないので、自分が大好きな子のその瞬間が見れたら、まぁコメントで言及しちゃうだろうなあ…と。
もう1つは、メディア選抜の意味です。先程も書いたように、SKEの2トップのうち、松井玲奈さんだけが12位までの「メディア選抜」に入ったんですね。「私は関東の学生なので玲奈がもっともっとテレビとかで見られるのかなって考えたら嬉しすぎます‼」「テレビでれなちゃんがいっぱい写るの楽しみにしてます」というコメントから、テレビでのパフォーマンスが期待されてるんだなーって伺えます。
id:emmy_ume
数年前に、あっちゃんがまだブログで質問回答なんかをしてた頃、「女の子のファンについてどう思いますか?」という質問に対して「嬉しいけどなんで?って不思議な気持ちになります」って答えてたのを思い出した。
うんうん。だからこそ、アメブロのコメント欄を見て「うわー女の子多いんだなあ!」って直感的に驚いて、これは生態系を知りたいなあ、わからないけど、数年でずいぶん変わったんだろうな、今のこの瞬間をデータに落としてみたいなって、思いました。