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世界に真摯に寛容であること。三浦春馬さんとキンキーブーツ

正直、彼のことはあまり知らない。追悼できるほど知らない。

でもこの1週間ずっと彼のことが頭にあった。私の中であまりにも鮮烈に焼き付いているからだ。あの瞬間の猛烈な生のエネルギーと、唐突な訃報がどうしても結びつかなくて何度もこれは夢じゃないかと思った。

この人をもっと観たい、ずっと観たい、どんどん新しい扉を開いていってほしい。特別な「推し」ではないのにそう思わせる、人を魅了する圧倒的な引力が彼にはあった。

三浦春馬さん。「キンキーブーツ」でのあなたは本当に最高でした。

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三浦春馬&STAFF INFO @miuraharuma_jp(2019/04/16)



彼のことはあまり知らない、けど、それだけは自信を持って言える。あの瞬間が嘘じゃなかったことをこれから先も思い出せるように、自分のために書く。

最高すぎて言葉を失った2016年のこと

2016年の初演、3日目に観た。一人で来たのを後悔した。今すぐこの感動を誰かと分かち合いたくて、見ず知らずの人をつかまえて「最高でしたね!!??」と話しかけちゃいそうなくらい興奮した。多分そういう人がたくさんいて、あの劇場ロビーにはちょっと異様なざわめきと熱気があった。

 強いメッセージがあっていい意味でシンプルなストーリー、とにかくアガりまくるシンディ・ローパーの曲、きらびやかで美しいドラァグクイーンたちのパフォーマンス、そして圧倒的にハッピーーーーーな幕切れ!!!!!

なんとかチケットをかき集めて初演も再演も何度も見て、毎回ボロボロ泣いた。別に感動物語ではないのに、優しくて熱くて高潔で泣いてしまう。

わたしも自分を勇気づけるハイヒールがほしくて、劇場を出て熱い体でピカピカの靴を買いに行った。それくらい力があった。客席じゃないところで人間の行動を変えちゃうくらいの。

 

 

 美しい人たち

この年の春、帝国劇場でやっていた「1789」に出演していた小池徹平さんとソニンちゃんが次も共演する、ということで「キンキーブーツ」のチケットをとった。なので、私はこのミュージカルのことは名前しか知らず、三浦春馬さんに特段思い入れがあったわけでもなかった。

でも、めちゃくちゃ目を奪われた。持っていかれた。本当にすごかった。圧倒的な華。その華に負けない歌とダンス。ええ……こんなに舞台でバチバチに輝いちゃう人なのかよ!

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BWミュージカル「キンキーブーツ」 @kinkybootsjp(2017/02/27)

真っ赤なギラギラのタイトスカートのドレスに、いかついハイヒールで歌い踊るカリスマドラァグクイーンのローラ。筋肉隆々で美しくて強くてカッコいい。

三浦春馬という人の立ちふるまいだけで、「ドラァグクイーン」は単に「女装」ではないということがあまりにも明確にわかって最高だった。

彼らは「女」になることを目指しているわけではないのだ。性別がどうこうじゃなくて自分らしく輝くためにどんなスタイルを選択するか、って話なのだ。

 

 

2016年の日本はまだまだそのあたりが今よりも意識されていなかったようで(と思うと、数年でまあまあ社会は変わりますね)報道によっては「三浦春馬、女装に挑戦」的に取り上げられているものがそこそこあって「違うんだって!!!!」「てかそこがテーマの根幹じゃねえか!」となったのを覚えている。

人気俳優が女性の格好で女性の言葉で演技することが、ミニスカートでハイヒールを履いているその突飛に見える外見が、「ヤバい」わけじゃなくてさ……ということを、誰よりも彼自身が心底理解していたから、そのプライド、真剣さが客席にもビリビリ伝わってきたんだろうなと思う。

 

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BWミュージカル「キンキーブーツ」 @kinkybootsjp(2019/05/28)

ローラの仲間たちのドラァグクイーン、エンジェルスのみなさんももちろん男性で、そして本当にキュートだった。カツカツとヒールを鳴らして(稽古は大変だったらしい。ヒール……大変だよね)、つけまつげバッチリの目で妖艶にウインクする。メイクも日に日にうまくなっていく。

誠実で真面目で繊細で力強い春馬ローラの姿勢がみんなに伝播しているんだろうな、と思わせられた。「女装w」って悪ノリ感や照れみたいな空気がミリもなく、全員が目一杯「美」を楽しんでいるのが超超わかる。みんなとてもかわいい。

 

 

三浦春馬なんて「イケメン」枠でいくらでも仕事ができるだろうに、この役をここまで魂を込めてやるんだな、とテレビでしか彼を知らなかった私は思った。「2013年にブロードウェイでビリー・ポーターの初演を観てから、ずっと憧れていた」と話していて、そうなんだと思った。

ビリーのローラは超超超超かっこよくて気高く、まだ若い三浦さんが彼に憧れたのはすごく素敵だと思った。


Billy Porter, Tory Ross - Sex Is In The Heel (Kinky Boots)

 

 「おかしくない、大事なことだよ」

2019年、再演の記者会見でのやりとりがファンのあいだで話題になった。

「初演と再演の体づくりの違いについて」振られた三浦春馬が、「以前(初演)は筋肉質な大きな体を目指していたんですが、今回は“美”を追求したというか……ちょっとおかしいですが……」と照れ笑いしながら話すと、記者から笑いが漏れる。

と、小池徹平が間髪入れずに「いやおかしくない、大事なことだよ」って言うのだ。

 

 

この作品の本質みたいなものが、この数秒に詰まってるなと思った。

愛とリスペクトを持って、相手にちゃんと向き合って、理解しようとする。 その人の考えや姿勢を尊重する。

それはまさに劇中で何度も出てくるメッセージ、「あるがままの他人を受け入れろ」ってそのものだ。 「自分」じゃなくて「他人」ね。

「あるがままの他人を受け入れろ」

正直、字面だけで見たら説教臭くない? ミュージカルって世界の真正面からきれいごとを大声で言っていく、その貫く力が大好きだけど、なんとなくくすぐったいな〜って斜に構えた私は思ってしまう。

で、日本人キャストのキンキーブーツを観て私が感動したのはそこで、この「きれいごと」が上滑りせず、めちゃくちゃ説得力があったのだ。

それは多分、わからないけど、役者自身がお互いの関係性の中でそうあろうとしていたからだと思う。寛容性とは何か、ジェンダーをどう考えるか、物語の中だけとしてじゃなく今目の前にあるリアルな問題としてちゃんと向き合おうとしていたからだったと思う。*1

だからといって「説教臭い」で終わらないのでミュージカルって装置は最高だ。超超楽しい。エンタメと世界への真摯さのバランスがちょうどよく、それは本当に三浦春馬さんや小池徹平さんはじめキャストのみなさんの真摯さだなあと思った(割愛するけど小池徹平のチャーリーもソニンのローレンもめっちゃ好き!!!)

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BWミュージカル「キンキーブーツ」 @kinkybootsjp(2019/04/27))

もし希望が叶うならば

再演のパンフレットで、三浦さんはこう話していた。

2度目の出演となった今も、僕にとって『キンキーブーツ』は夢であり目標です。挑戦できる環境にいるのはとてもありがたいし、幸せなことだなと思います。もし僕の希望が叶うならば、この後も再演を続けて2年か3年に一度、「夢を掴みたい」と思う自分を見つめ返せる場所になったらいいなと思います。

うう……苦しい。切ない。叶えさせてよ。またこの景色を見たかった、私たちも。 

見てほしいな、三浦春馬をなんとなくしか知らない人に、ローラを。これからも。

アミューズさんはDVD化を検討していくと答えてくれているそうだから、せめて叶うといいな。そしたら何度でも思い出せるね。

日本の舞台では珍しく、カーテンコールで観客が総立ちになって踊って歓声を上げるんだよ。そういうパワーがあるんだよ。すごい演目だったんだよ〜〜!! 

何度も再演を重ねて、その度にパワーアップして、円熟して、いろんな魅力を知る人が増えて、「わかる〜、キンキーブーツの三浦春馬最高だよね、私は初演から観てるよ!!」って自慢したかったよ。

ローラが代替わりしたらしたで「やっぱり三浦春馬ってすごかったよね」ってニヤニヤしながら、あの最初の日、叫びそうになりながら新国立劇場の階段をフラフラ降りた日を思い出したかったよ。

あ〜〜〜〜〜〜〜〜10年後、20年後、絶対かっこいいおじさまになっただろうな。見たかった。どこまで行くのか、たどり着くのか見せてほしかった。

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JUST BE WHO YOU WANT TO BE(なりなさい、自分がなりたい自分に)

 

アーティストとしての新曲『Night Diver』もちょっとかっこよすぎるんだよな、曲もダンスも……。これでファンになっちゃう人絶対いるでしょ。こんなのを遺していくなんて、なんて罪深い人なんだ。

瞼閉じて映る世界

そこに君がいるならば

もういっそこのままでいいや

いつまでも忘れられなくて

 


三浦春馬「Night Diver」Music Video

 

生きてほしかった、なんて無責任に言えない。人の心の中なんて誰にもわからない。直前の言葉をなぞっても、過去の言葉を拾い集めても、何度でも「なんで」と思ってしまうけど、「なんで」なんて明確にないのかもしれないね。理由を知りたいと思うのはおこがましい。

だから、客席に見せてくれていた姿だけを信じるし、覚えていることにする。あの時間は別に嘘でも偽りでもない、それはそれで本当のあなたでしょうから。

 

R.I.P.  どうぞ安らかに。

明日はあの日買ったハイヒールを履く。

 


三浦春馬:ミュージカル『Kinky Boots』ゲネプロダイジェスト

*1:ちなみにローラのセクシュアリティについて脚本家のハーヴェイ・ファイアスタインは「ローラはドラァグクイーンなだけでゲイではないよ」、演出のジェリー・ミッチェルは「俳優には自分の好きなアプローチで演じるように言ってきました。俳優自身にゲイなのか、そうでないのか決めてもらうのが私は好きですね」と言っている(再演パンフより)。