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2019年のよかった本11冊(いまさら)

もう2020年も6月ですが、2019年読んでおもしろかった本をまとめておく。

おもしろかった本で思い出せるだけでこれだけあるので、久しぶりに本をたくさん読んだ年だったんだな〜。

なぜなら、インターネットに飽きていたからである……(なんかここ最近毎年飽きている気がするが…)(逆になんだかんだ居座っていることがわかるな!)

本のいいところは、読んだらカウントされるところだ。「今月何冊読んだ」の数が増えていくのは楽しい。KindleとBookLiveのアプリに表示が増えていくのは達成感があって楽しい。

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掃除婦のための手引き書

すごい本だった。すごい小説だった。すごい短編集だった。

4人の書店員さんがおすすめの本を紹介するイベントであげられていて買った1冊。『掃除婦のための手引き書』、どこか牧歌的なそのタイトルの響きを盛大に裏切られた気もするし寸分違わずぴったりだった気もする。

私の海外女性作家のオールタイムベストはミランダ・ジュライだけど、ジュライの短編が食卓でゆらめくろうそくなら、ベルリンの短編は雨ざらしの非常階段の点滅してる蛍光灯って感じだ。

暴力的な描写、荒んだ描写もあるのできつい人はきついかも。優しく暖かくほのぼのした小説ではないです。

中島京子さんのレビューが本当に名文でしびれる。これだけでも読んでほしい。

人生はただ苛酷なわけでも、ただおかしいわけでも、ただ悲しいわけでも、ただ美しいわけでもなく、それらすべてであり、それ以上のものだ。それをわからせてくれるのが小説で、人生をそのように見る方法を提供するのが小説というものなのだ。ルシア・ベルリンの短篇は、それを私たちに教えてくれる。

allreviews.jp

この夏のこともどうせ忘れる

漫画家・絵津鼓さんの新刊を調べていたら検索結果にこの本の書影が出てきて、惹かれて買った。

この表紙、背中だけで勝負しててすごくないですか? 著者さんと編集さんの気概。

絵津鼓さんの描く人間たち、男女ともに揺らぎがあって魅力的で大好きなのですが、 あ〜〜こういうところが好きだ、と思ったのであった。顔や表情なくてもこういう絶妙なゆらぎを出せるんだなぁ。見方によっていろんな一瞬に見える想像の余地というか。

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いろんな「高校生ふたり」の短編集。男男も女女も男女もあって、全部友情とも恋愛とも言い切れない距離感。

とにかくタイトルの情感が素晴らしい……。「この夏のこともどうせ忘れる」、そうとしか言いようがない薄暗くて気怠くて蒸し暑い夏の話。各話タイトルの温度感が好きな人はきっと好きなはず。

はいはい、なるほどね〜こういう感じね、こういう青春系ね、とわかった気になって読み進めていったところで「生き残り」という一編の強靭さにぶっ飛ぶ。すごい。3回くらい読んだ。今の時代のジュブナイル小説でとても好きでした。

Blue

Blue(ブルー)

Blue(ブルー)

2019年のフィクションベスト。魂奪われてしまった。何度も何度も殴られて血は出るしあざはできるし痛くて苦しくてキツいんだけど、どうにかして最後までたどりつきたくなる。

平成という時代が始まる日に生まれ、終わる日に死んだ一人の男の人生から見る社会の暗部。今ここにある地獄。めちゃくちゃしんどいのにページ繰る手を止められなくて一気に読んだ。

児童虐待、子どもの貧困、非正規労働、ロスジェネ、引きこもり、ネカフェ難民、戸籍のない子ども、パンクする児童相談所、外国人技能実習生……

平成の闇が全部入りで自分が生きている世界と地続きで、絶対どこかでその地獄の残像を目にしているから胸がざわざわする。

著者の葉真中顕さんははてなブロガーだよ!!「俺の邪悪なメモ」だよ! 他の小説もおもしろいよ! あのかわいくて邪悪なアイコン。

聖なるズー

聖なるズー (集英社学芸単行本)

聖なるズー (集英社学芸単行本)

12月発売だけど、2019年ベストに選んでいた人が周りでけっこう多かった。それぐらい鮮烈な1冊。

あるきっかけで動物性愛を研究対象にすることにした著者がドイツに渡り、犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズーフィリア(ズー)」たちの話を聞いていく(「獣姦」と「動物性愛」は違う)。

ズーであることを隠している人も当然多い。「聞かせてください」と突然押しかけてペラペラ話してくれるようなことでもないから、著者はコミュニティに敬意を払いながら少しずつ距離を縮めていく。彼らの生活に寄り添う。

動物とのセックスの話も赤裸々に出てくる。私も含め普通の人は(という言葉をあえて使おう)「動物を性的に愛する」ということがピンとこない…どころかむしろ嫌悪感すら感じる人が多いと思う。私も読む前はゲテモノじゃないけど、もっと、センセーショナルなものを想像した。

でも、いい意味で裏切られる。共感できるかは別として、彼らの考え方を知ることで相対的に自分の中の「愛」の枠組みについて考えさせられる。対等な関係とは何か、相手を尊重するとはどういうことか、愛とセックスとは何か。

「セックスの話題はセンセーショナルだから、みんなズーの話を性行為だけに限って取り上げたがる。だが、ズーの問題の本質は、動物や世界との関係性についての話だ。これはとても難しい問題だよ。世界や動物をどう見るか、という議論だからね」

本当に動物の権利を考えているのであれば、彼らの「性的な」部分も含めて受け入れるべきではないか、去勢や避妊を強いることは人間本位の不当な人権(獣権?)侵害ではないか――という問いがおもしろい。この点に関しての著者の考察もすごくおもしろい。

いろいろ考えたことは山ほどあるけど、かんたんに言うのが難しい本だ。そして、その複雑なものを複雑なまま突きつけてくれるのがうれしい。読者への、人間への信頼を感じる。

ハリー・ポッターと呪いの子

※JKローリングの発言を巡る一連の騒動は知っているけど、読んでおもしろかった事実は変わらないし、ダニエル・ラドクリフの「あなたの読書体験は真にあなたとその本の間だけのことで、神聖なもの」「あなたがあのシリーズから感じたものが全てだし、今回のコメントによってそれがあまり汚されないでいてほしいと願っている」というコメントに敬意を表してそのままにする。


ハリポタGOリリースきっかけ(たった1年前なのかよ!)で今さら一気読みしたんだけど、おもしろすぎた。

ハリーの3人の子のうち1人だけスリザリンに組分けされてしまったアルバス、マルフォイの息子スコーピウスと親友になり…ってあらすじだけでもう破壊力がすごい。

一度引きずり込んだオタクは一生弄んでやるという作者の気概を感じる。ハリポタで育った世代としてはローリング氏は親鳥だな……。刷り込み。

舞台前提の作品だから、小説じゃなくて脚本形式(セリフとちょっとだけのト書き)なんだけど、観劇する人間からすると演出はどんなんかな〜っていくらでも想像できるから逆にめちゃ楽しい。

数年前にハリポタ全巻一気読みしたときも超思ったのだけど、このシリーズはハリーを聖人君子に書かないのが本当にすごい。

スーパーヒーローな主人公にする方が簡単だろうに、嫌な部分も、ムカつく部分もあけすけにするところに人間を感じる。『呪いの子』はさらにそれを強く思って、「親」という立場だからこそ、彼の歪みや揺らぎがドロドロと出てて本当にアツい。思えばジェームズ・ポッターも業を抱えていたわけだよな……。

ホグワーツに救われた魔法界の英雄の息子がホグワーツって、しっくり合わない人にはそんなに楽しいところじゃないんだ」って父親に吐き捨てるのがよすぎる。よすぎるよ。

あのハリー・ポッターの息子がグリフィンドールじゃなくてスリザリン!?って瞬間がめちゃくちゃ簡素に書かれて、あっというまに1年目が終わって、すぐに「今日から新年度が始まる憂鬱な9と3/4線」になるのがいい。そうだ、学校がつまらない人間にピカピカの新入生1年目の思い出はないのだ。英雄の息子でも。

真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園

真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園

真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園

超すばらしいノンフィクション。読めてよかった。

博多にある夜間保育園をめぐる、3年半のルポルタージュ。深夜まで働く親子のためにある夜間保育園って存在、そもそもみんな知ってる? 私は知らなかった。どんな世界なんだろ?と何の気なしに読み始めてすごく勉強になったし感動した本。

保育園をめぐるあれこれはこの数年社会的にいろんな角度からフォーカスが当たっているけれど、本当にたくさんの人の尽力で少しずつ社会が変わってきたことがよくわかる。この本で描かれる努力と現状、「夜の子」たちの世界の話と見せかけて、何も他人事じゃない。

メインの利用者は水商売のお仕事してるお母さんたちなのかな?と先入観で読むと、意外と違う実情がある。本当にこの場所に行き着いてほしい人たちにはなかなかつながりきらない歯がゆい現実。

今まさに新型コロナを巡って「風俗業などで働く人が給付金の対象外」って話があるけど(一瞬ネットで紛糾してもうだいぶ話題が鎮火してしまったがまだ対象外のままです)、いろんなことがすべて地続きなんだなって思う。要素要素のテーマはすごく深くて考えさせられるんだけど、重苦しいわけではなくとっても読みやすくておすすめです。

お砂糖とスパイスと爆発的な何か

フェミニスト批評」という切り口で、あんな映画やこんな演劇を見てみる試み。作品ごとの批評自体もおもしろいんだけど、私はこの本のまえがきがめちゃくちゃ好き。

作品が興味深く思えるというのは、作品が優れているというのとは違います。(略)ひどい作品を見た後でそれに関する批評を読むと、「そうそう、そこがそういう理由でひどかったんだ!」と思うことがあると思います。批評を読んだ後でもその作品はひどいままですが、ちょっとだけ興味深くなりました。

気をつけなければいけないのは、「自由な解釈」というのは実は全然自由なんかじゃない、ということです。人間は今まで行きてきた世界によって、知らないうちにものの見方を規定されてしまっています。(略)私にとっては、その檻を破る道具がフェミニスト批評です。これを使ったほうが私は作品を楽しめるし、ひょっとすると私以外の人たちにとってもちょっとは楽しくなるかもしれない、と思っています。

私は共感至上主義というか、好き嫌いがすべてに優先するような昨今の空気がすげ〜〜〜嫌なので、批評ってジャンルは共感を求めない(というと言い過ぎ?)ところがいい。「好きじゃない」「面白くない」と「興味深い」は両立する。

北村さんの批評自体は自分とは視点が違ったり、それこそ共感できなかったりする箇所もあるのですが、それこそが批評の醍醐味だよね。私とは違うけど「なるほどそういう見方もできるのか」とは思う。そういう訓練。

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか

M-1の盛り上がりの後に、そういえばこの本話題になってたな〜と思って何の気なしに読んだんだけど、おもしろくてノンストップで読み切ってしまった。

全然お笑い詳しくないけど、自分でも知ってるレベルの有名なコンビの凄さが、その名を出して具体的に語られるのでわかりやすい。Netflixで過去のM-1まるごと配信されているので「この年のこのネタ」を見られるのも楽しい。

今年は山里亮太『天才はあきらめた』も若林正恭『ナナメの夕暮れ』も読んだので芸人本づいていた。どっちもおもしろかった。お笑いって言語化なんだな〜と思った。

天才はあきらめた (朝日文庫)

天才はあきらめた (朝日文庫)

「一番の友人にして、一番潰したい男。それが、ぼくにとっての山里亮太である」。『天才はあきらめた』の解説での若林の言葉、すべてが完璧なフレーズでよかった。若林がテレビで雑ないじりされてると山ちゃんから「あいつ許せない。悪い評判流しとくからまかせといて」ってLINEくるって話もいい。完全に話がずれた。笑

サカナとヤクザ

タイトルだけで最高。アワビにナマコにウナギ、こんなにおおっぴらに密漁が横行している現実を突きつけられてマジで??ってなる。

漁業は本来、農業と比べて「略奪」的な産業構造であるという下りがおもしろかった。

日本で取引されている45%、およそ906トンが密漁アワビの計算になる。我々はアワビを食べる時、2回に一度は暴力団に金を落としているということである。史上に流通する半分が密漁アワビ、言い方を変えれば盗品だというのは異常な事態という他ない。

鈴木智彦さん、新刊も気になる。

ヤクザときどきピアノ

ヤクザときどきピアノ

育休刑事

育休刑事 (幻冬舎単行本)

育休刑事 (幻冬舎単行本)

育休中の男性刑事が子供を赤ちゃんを抱えていろんな事件を解決していく話。

……っていうと、推理ものに赤ちゃんがトッピングされてるだけ?って感じですが、そうじゃなくて、赤ちゃんの存在にちゃんと意味があり、直球でストーリーに生きてくるのが新鮮でおもしろい。

冒頭から抱っこひもの記述、赤ちゃん連れて外出する時の苦労あるある、記述や注が詳細すぎて身に覚えがある人は「これはわかってる人が書いてるやつ……!」ってなるはず。笑

今育休中とか、子どもが小さいとか、近い境遇の人は絶対おもしろいと思う(ニッチだな!)

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

もはや紹介するまでもない2019年の大ベストセラー。私が説明するまでもなくめちゃくちゃ素晴らしい本。

差別って? 分断って? 多様性って?

否が応でもそういうのが大事になっていくのは、もう絶対確実に明らかに時代の流れだけど、具体的に何をどう考えていったらいいの? のケーススタディとしてすごく勉強になる。子どもたちの鮮やかな感性に、読んでるこっちも傍観者でいられなくなる、脳みそをこじあけられる。

ブレイディみかこさんの息子との距離感が本当によいし、対子どもに限らず対人間への目線としてこういう感じを目指したい。「息子の人生にわたしの出番がやってきたのではなく、私の人生に息子の出番がやってきたのだろう」って言い回しがすごくいいよな〜〜!と今ぱらぱら読み返して思い出した。

さんざん手垢のついた言葉かもしれないが、未来は彼らの手の中にある。世の中が退行しているとか、世界はひどい方向にむかっているとか言うのは、たぶん彼らを見くびりすぎている。


はあ、本当に今さらだけど3年後くらいの自分が読んだらいろいろ思い出しておもしろいかなと思って書いた。

今新型コロナの影響で在宅勤務が続いているので、通勤時間がないと本が全然読み進まない(というのも、いつかのために書いておこう)。