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「はたらくってなんだ。」

とにかく、今の就活のルールに疑問なく乗るのが怖い。
毎年毎年膨大な数の人が「なんだかなぁ」と感じ続けているこのちょっと歪んだ仕組みが、
完全にビジネスになってしまっているこの一連のプロセスが、
人生で一度しか経験しないからという理由で放っておかれるであろう現状がすごく嫌だ。
たぶん自分のなかで、世の中を変えたい、とまでは思っていなくて、
単純に、わたしやわたしの周りの人たちがもっとしあわせに自信を持って
「はたらく」を考えたり語ったりするためにはどうしたらいいのかなと思ってる。


はたらくってなんだろう、と思ったのは大学受験を通してだった。
理系も文系も選べなかったわたしは、偏差値順に並べられたなかから選ぶ「大学受験」がほんとうに嫌だった。
今ある仕事のどれかに就くために学部や大学を選ぶ。
弁護士になりたいから法学部、国家公務員になりたいからとりあえず東大。
将来を考えるってそういうことなのかなあ。


小学生のときだってそうだ。
何度も書かされた「将来の夢」は、ほぼ確実に「職業名」だった。
なにそれ、おもしろくないじゃん。なんでこんな閉じられた予定調和的な未来を考えなきゃいけないの。
あなたがなりたいのは「お医者さん」なの?人を助けたいという理由から出発する、他の選択肢はないの?


今ある職業カタログから自分の未来を描くなんてあまりおもしろいと思えなかったから、意識して決めずにいた。
大学も、学際分野でレールのないところを選んだ。
ああ解放される、窮屈な将来像から、と思った。
大学はとても楽しい。ビジョンを描くことの大切さを徹底的に教えられた。
「何になりたいの?」ではなくて「何を考えてるの?」「何がしたいの?」を問われた。
どう考えてもそれが自然だと思う。


いろんなひとの就職活動の話を聞いていていつも違和感がぬぐえなかった。
わたしが少し前に感じていたものに似ていた。
今の就活は、リクナビなしでは動かなくて、そこでランキングされている中で上から受けていく。
ランキング以外の情報への到達プロセスの最初は「検索」なんだよね。
名前を知らない会社は検索できない。出会えない。選択肢に入らない。
わたしはそうやって就職したいのかな、と考えた。
……あんまりしたくない気がする。
社会の一員として「はたらく」人になることは本当に楽しくてどきどきすることに違いないのに、
どうして入り口はこんなに狭くてギスギスしててしあわせそうじゃないの?
総幸福ゲージを最大化させるやり方がなにか他に、あるはずじゃない?
だったら、何から変えられるかな。


やりたいことは、就職のお手伝い、じゃない。もっと広い。
その人に最適なプロモーションのやり方とか魅力を考えるようなことなんだと思う。
大学1年生のときに、あるNPOで聞き書きの活動をしていた。
自分が会いたい人に会う口実になるかな、と思ってはじめたのだけど実際は有名人に会いに行くわけではなくて、
世の中にたくさんいる「普通のかっこいい大人」の話を聞くものだった。
正直最初はすこしがっかりしたけど、今なら、意味がわかる。
もうすぐ店を閉める郊外のパン屋のおじいちゃんや、
清里で国産大豆でおいしいお豆腐を少しずつ作っているすてきなご夫婦、
個人でヨガ教室をやっているきれいなおねえさん、いろんな「無名の」人に会いに行った。
みんなそれぞれ、ここにいたるまでの物語がちゃんとあった。
わたしたちが聞きに行かなければこんなにきちんと紡がれることはなかったかもしれない言葉たち。
自明であるはずの「自分」をあえて言葉にして伝える作業。
こちらがおはなしを聞かせてもらっているのに
最後にかならず「今日はすごくいい時間だった。ありがとう」と言ってもらえた。


普段あえて振り返ることはないかもしれないけど、どんな人でも物語があるでしょう、
というのが、わたしの信じているものの根本だと思う。
会社という区切りをつける前に、内側にたくさん語れるものはあるはずなのだ。
この会社にアプライするかなんて関係ない次元で存在するものだ。
同じような履歴書を何枚も書くなら、今までの自分を振り返ったもの、大事にしているものを
伝えるものがひとつあれば用は足りるんじゃないかな。
未来の履歴書は、常にアップデートされていく、
仕事だけではなくて人とつながるときのひとつの指針や方向性付けになるようなものになるべきだと本気で思う。
もはや仕事だけが人生なんてつまらないでしょう?
「履歴書」をちゃんと書いて、仕事以外にも、どきどきすることをたくさんやればいいのだ。
仲間を集めたり、何かに参加したり、ムーブメントを起こしていくプラットフォームにしていけばいいじゃん。
そのほうが楽しいじゃん。


 わたしが影響された言葉の、とても大きな2つ。
 みんながこういうことを意識すれば、世界はもっとおもしろいのになって思う。


“ですから、本当のことを言っちゃうと、新卒の面接をやる場合、
 「君がさ、これまで大切にしてきたことって何?」という、ものすごく概念的な質問で十分なんですよ。”
“「本当に大切にしてきたことは何? あるの? ないの?」 「それは、言葉になってるの?」。
 そういうことですね、聞きたいのは。” 
(「はたらきたい。」/ほぼ日刊イトイ新聞


“何者かになりたいという欲求は熾烈なものとしてあるんだろうけれど、
 何者かになるということ自体がモチベーションになっていて、
 何者かになって何をするかというのが依然として何もないんです。
 それが非常に象徴的だと思いました。”
“映画監督になりたいという若者は数多くいますが、
 どんな映画を撮りたいのかを明確に答えられる人はほとんどいません。
 僕にとって何者かになるということは、
 世の中に対して確固としたリアクションを起こす人間を指しています。
 世の中に自分の席があるということだけが、
 何者かになることではない訳です。”
“何者かになることは大事かもしれませんが、
 何者かになって何をするのかということが大事なんです。
 これは残念ながら自分で見つけるしかありません。誰も教えてはくれません。” 
(押井 守)


追記:
各出典は以下です。ご興味ある方はどうぞ全文お読みください。

面接試験の本当の対策 - 「ほぼ日」の就職論。
この特集は他の記事もものすごくおもしろいです。
ほぼ日刊イトイ新聞 - 「ほぼ日」の就職論。


スカイ・クロラは原作もとてもすき。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』押井守監督記者会見 - 押井守監督最新作 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」公式サイト