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新書「『タカラヅカ』の経営戦略」超おもしろかった 阪急の駅員→宝塚大劇場総支配人になった人がAKBと比較しながら解説する

めちゃくちゃ面白かった。
新書~って感じのタイトルだし知り合いのヅカヲタのお姉さんにすすめられなかったらスルーしてたと思うけどものすごく面白かった。1日で読み終わるのもったいなくて後半半分を次の日までとっておいたくらい。
宝塚を知らなくても、ビジネスとしてのステージエンタメに興味がある人だったら楽しく読めると思う。
だって、100年だよ。100年続いてきてるわけだよ。すごいことだよ。


著者の森下さんは、阪急に入社して普通に車掌や運転手をやってから歌劇団に異動になって、星組プロデューサーをして、宝塚大劇場の総支配人をやってからの梅田芸術劇場の役員という経歴の人。しかし阪急、鉄道会社だから人事異動の1つとして駅員さんからエンタメビジネスに動かすの冷静に考えて振り幅すさまじい。でも経営戦略としてインフラと別軸の収益源として成立させているからこそ、普通の芸能ビジネスと少しニュアンスや側面が違ってて、ある意味ドライな感じで視点が面白い。

ビジネス戦略が整理されてて、そう!こういうの!読みたかった!!って感じ。まず「はじめに」の時点でこんな感じで期待しかない…!ってなる。

「100年も継続する」ビジネスモデルを以下のように特徴づけることもできます。
①歌劇作品を「創って作って売る」垂直統合システムの存在
②興行ビジネスで最も重要な「自主制作」「主催興行」の質・量両面での充実
③卓越した独特の著作権管理手法
④地方での興行を上手く取り込んだ実質的ロングラン興行戦略の実践

こんな感じでガツガツと、およそ感情論とかけ離れたワードがたくさん出てきて最高です。私が一番興奮したのは「阪急が宝塚歌劇を保有している意味、それはまず、親会社である阪急阪神ホールディングスの株主対策の一面です」「つまり、買収防衛策という点で、個人株主対策は必須となるのです」ってところ。アイドル文化とかファンの心理とかをふわっとまとめた評論家のみなさんの書物もそれはそれはそれでいいし意味あると思うんだけどだけど、数字や用語を定量的に拾いながら経営サイドの話を、しかも宝塚様のお話を、拝見できるなんてレアチャンスでうれしすぎる!!


とはいえ数字の話だけじゃなくて、リアルな運営の話とかカルチャーや姿勢の話もいろいろ出てくる。

宝塚歌劇は女性だけの歌劇団で独特な衣装とお化粧、という外見的なことだけじゃなくて、音楽学校から一貫したある意味閉鎖的な人材教育環境、東西の専用劇場を中心にビジネスとしての利益最大化を目指したシステマティックな興行体制などなどシステムとしていろいろ独特で、歴史の積み重ねもあるけど、分かりにくいっちゃ分かりにくい。けど、改めてそっちの側面から説明されるとなるほど~って思う。こうやって具体的なものに言及してくれると、例えば私だったらAKBとかジャニーズとか2.5次元舞台と言われる諸々のあり方とかと比べたくなる。何が強くて何が弱いのか。どこがどう時代や客層に合わせて変わってるのか。

内情の話だと、音楽学校の卒業生から組子を選ぶ組付きプロデューサーによる“ドラフト会議”、必ず来るトップスターの卒業の日を見据えた上演演目決めの駆け引き、劇場支配人として稼働率を上げるべくの奮闘、機材トラブルで上演中断に陥った際のトラブルシューティング、とか、具体的な公演名や生徒さんの名前(柚希礼音さん、稔幸さんなどなど)あげながら書いてくれてるのに結構ドキドキする。この2年くらいしか知らない私ですら、だから彼が実際関わってた期間の宝塚を知ってたらますます、だと思う。

あとバウホールやら日本青年館やら中日劇場やら博多座やらファンにはお馴染みの劇場の名前も出てきてそれぞれの評価や使い勝手、位置づけが明らかにされてるのもおもしろい。青年館はキャパが中途半端で結構難しいとか、名古屋は東京にも関西にも日帰りできるから宝塚としては中日劇場は大事でぜひ新規にお客さんを取り込みたい場所とか。


後半では、まるまる1章使ってガッツリAKB48との比較。

若干突っ込みたいところはあるけど、それでもだいぶ的を得ていて(的を得てない比較だって世の中には山ほどありますからね)どっちも追っかけてる自分としても楽しく読めた。

これも冒頭で「双方に共通するコンセプトとして『シロウトの神格化』というフレーズを使っていきたいと思います」ってフレーズが出てきた時点で期待してたのですが裏切られなかった……。そうなんだよ、シロウトの、神格化。“私の”神様に近づけていくプロセスなんですよね。


比較の視点としてあげてるのが5つあって、どれも考えがいがあるので詳細はお読みください。

①必然性と偶然性
②閉鎖系と開放系
③近接性と結界
④物理的アクセスと心理的アクセス
⑤卒業とホーム・カミング

常設劇場を拠点に持ってること、明確なセンターorトップ、はっきりした卒業制度、とかAKBと宝塚の共通点(…というか真似た点というべきかもしれない)はあるわけですが、ファンとの距離感、ファン組織の統制、立ち位置ゼロ(舞台の真ん中)に求められるもの、はもちろん違うわけで具体的な現象から背後にある運営的な思惑、ビジネス的な視点まで考察や推測してて読み応えある。「『コミュニケーションを売る、見せ方・売り方を工夫する』という意味で、宝塚歌劇AKB48は時代を超えた共通項を持っているのは間違いありません」。ほんとにな~~!

で、AKBとかブロードウェイのあれこれを踏まえて最後にこれから宝塚歌劇が新たに提供すべき商品、コミュニケーションとして提案してるものが、ほんとそれ……!ってなるのです。これは宝塚だけじゃなくて、ステージエンタメなんでもそうだと思う。うーん、いや、ジャニーズは違うかも。違うかもってなんとなく思っちゃう自分の心理も考え始めるとおもしろい。とにかく今このネット全盛期を踏まえるとそうだよね、ってなる妥当な結論。……ここまで引っ張って何かは言わないよ!読もうね!


本論とは少し逸れるんだけど、「平日昼の空白」問題が超興味深かった。宝塚の新公演はほとんどの場合、金曜に幕があく。実際に観劇したりネットや知人の評判を見てから買い足す人が多くて、最初の月~金のチケットがどれだけ幕が開く前に売れてるかに成否はかかってる…って話なんだけど、これってこれからますますどうしようもないよな~て思った。兵庫の宝塚大劇場は平日の公演時間が11時から、13時から、15時からの3パターンで、これって勤め人には絶対に無理な時間なのだ(東京は平日18時半からもある)。しかも宝塚は梅田から30分以上かかる。客層に女性が多いから特に目立つんだと思うけど、働いてる人は増えていくに決まっているよね。働いた金を週末に使ってるんだもんねえ。

もちろん、舞台は1人でも楽しめるエンタメだから平日休みの人もファンになりやすい(実際友人に何人もいる)って側面はあるけど、多分そういうことじゃなくて。「平日の昼」をターゲットに娯楽を提供するのはそもそも広く難しくなっていくよなぁって話。きっとたくさんのところで起きてそうだ。

いやーほんとにおもしろかった。Kindleでハイライトした場所ぽちぽち読み直してるだけでまだ楽しい。とてもおすすめです。


最後に直近の公演案内でもしておきます。

  • 白夜の誓い ―グスタフIII世、誇り高き王の戦い―

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宙組公演 ミュージカル『白夜の誓い―グスタフ三世、誇り高き王の戦い―』 | 宝塚歌劇公式HP

宙組・凰稀かなめ様の退団公演。「ロココの寵児として、北欧史にその名を残すスウェーデン国王・グスタフIII世の波乱に満ちた生涯を描くミュージカル」……なんですが私が不勉強なのもあるけど話は駆け足でちょっとなんか突っ込みどころがありまくる。とにかくかっこいい衣装だらけで眼福です。かなめさま~~。2幕のショーの歌がものすごく耳に残る。

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宝塚歌劇 雪組公演『ルパン三世 ―王妃の首飾りを追え!―/ファンシー・ガイ!』
「宝塚でルパン三世やるんだよ」って言うと十中八九「え????」と言われるけど本当です。東京では来月後半からなんですけどチケットが……全然とれない……。演目がキャッチーすぎるのもあるし、早霧せいなさん、咲妃みゆさんの雪組の新トップの大劇場お披露目公演なのでかなりの激戦です。ちゃんとルパンなので、興味ある方はぜひ最寄りのヅカヲタに耳打ちしてみてください。なんとかしてくれるかもしれません。。

このあとも、柚希礼音さん夢咲ねねさんの星組トップコンビの退団公演、タイトルからしてギラギラしまくりの「黒豹の如く」、かなりの確率で非ヅカヲタに「何このきれいな人……」と言われ、昨年「エリザベート」で演じたトートがあまりに2次元すぎて実在が危ぶまれている(私の中で)明日海りおさん率いる花組「カリスタの海に抱かれて」、グスタフであまりの輝きにびっくりした、舞台でのお美しさに意識がぼんやりしてしまう宙組新トップ朝夏まなとさんのお披露目公演キラキラミュージカル「TOP HAT」、レスリー・キーさんによる龍真咲さんのアー写があまりにかっこよすぎてこの小さな写真だけで期待していいんでしょうか?って前のめりな気持ちになる月組「1789-バスティーユの恋人たち-」などなどが控えております。「宝塚、1回見てみたいな~~」って気分のみなさま、2015年ぜひとも……!きっとハッピーになれるよ!


しかし年が明けてから活字欲が強くてすごいハイペースで読みまくってる。さっき読み始めた本もかなり期待できそうな出だしなので次のエントリも本の話になるかもしれません。Kindleは最高に幸福な悪魔の道具。