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2014年おすすめしまくった本と新しい「信仰の現場」に踏み込みたい欲

2014年は狂ったように読み物を求める時期とKindleなんてもう知らない見たくないってなる時期と交互にきて、平均するとそこそこ活字は読んだ気がする。でも途中で投げ出したのも多いかもしれない(電書は投げ出すのが簡単で、しかも他のを読み始めてしまうとあんまり残してることに気付かない)。

とはいえ、おすすめの何冊!とあげられるほども読んでないので、感想書いておきたかったけど結局どうもしなかった本をいくつか書き記しておくことにする。人間は案外すぐに忘れちゃうので、未来の自分のために。

  • 文化系のためのヒップホップ入門

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

めっっっちゃくちゃおもしろい。図書館で借りて読んで、あまりに気に入って新刊で買い直してすぐに最初からまた読み直したくらいおもしろい。ヒップホップに詳しくないから、詳しくないからこそ知らないことばっかりでもっと知りたいことばっかりで夢中になって読んだ。今本棚から出して付箋が貼ってあるところを追いかけたけどいっぱいあった。2011年に出たので少し前だけど、ヒップホップの勃興から発展と変容、日本への輸入と受容のされ方なんかについて追いかけていくので古さは関係ない。


例えるなら「万葉集」なんだよ、イケてるビートとかリリックを“本歌取り”するデータベース使った遊びなの、「ヒップホップはあくまでみんなが漫然と考えていることを気の利いた言い回しでラップできれば勝ちってゲームなんですよ」、なんてキャッチーな切り口をはさみつつ、白人文化黒人文化がどう影響しあってるの?結局過激なディスりあいは何が目的なの?テクノやハウスとどうつながったの?ヤンキーのものなの、エリートのものなの?女性ラッパーはどういう扱いなの?ロックとヒップホップが思想的に決定的に違うのはね、日本ではこういう風に捉えられてきてるけどね……などなど発祥のアメリカ本国から日本の話まで、文化的社会的政治的な多種多様なポイントをざざっと洗っていく。

対談を元にしてるから読みやすいし、「ヒップホップは少年ジャンプ」「プロレス」「お笑い」なんて、理解できるワードや概念を散りばめて比較しながら文化としてまるっと解説する。合間にアーティストや曲の名前も山ほど出てくるし章ごとに大量にディスク紹介があるから聞き始めるとキリがない!楽しい!

専門用語が多すぎるんですよ。僕もヒップホップに興味を持つようになって面白かったのは、例えば「レペゼン」て言葉はわりとよく知られているけど、「このトラックはイルでドープだよねえ」とか普通にいいますよね。それ何語だよっていう。そういう独特の言い回しがあって、面白いけど閉鎖的でもある。

これ冒頭の部分なんだけど、そうそうそうってなって一気にテンションが上がった。ヒップホップよく知らないけどなぜか謎のイメージだけが先行してる…って人の視点も含めて拾ってくれる。わたしがヒップホップに興味をもったのはライムベリーとかlyrical schoolとかラップするアイドルを好きになったのが最初で、メインストリームはなんか怖くてとっつきにくそう…と思ってたけどこの本はそういう人にも優しかった。

70年代の終わりにストリートの一角で若者の遊びとして密やかに始まったものがいろんなものを巻き込んでいつのまにかひとり歩きして商業的に成立していく、という過程にぞくぞくする。私はボーカロイド文化のことを考えながら読んだ。一段下に見られているというか、まぁ所詮アマチュアの内輪の音楽でしょ、というところからいろんなものがスタートするんだなと思う。ヒップホップや音楽の話をしているように見えて、もっと広く大きく、自分が好きなものに引きつけて考えられて読んでてとっても楽しかった。超おすすめ。

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

並列してこれを。タイトルから分かる通り、2007年に始まる初音ミクを取り巻く物語。こうやって「証言」が形になるのってとても意味があることだなあって思う。ここまでの数年(思えば本当に数年なんですね)で起こったいくつもの事件や転換点、ソフトウェアの開発サイドや曲の作り手なんかの話をまとめてうねりについてまとめてる。何箇所も泣きそうになってしまった。初音ミクはただの萌えキャラでも単なるソフトウェアでもなくて、向こうに人間がいるって、言うまでもないことだけどよく考えると感動的だなって思ってしまう。

大学生の春、渋谷のセンター街で「メルト」が流れてびっくりしてたら一緒にいた友達に「知ってるの?誰の曲?」って聞かれたことを思い出す。「え!? ボカロ曲ってこんなに公の場で当たり前のように流れる感じでいいの!?」って思った、ニコニコ動画自体の知名度も今よりずっと低かったあの頃。今はカラオケランキングやらオリコンやらでボカロ曲が上位を占めるのが当たり前だし、才能を生まれる場所として認知されていて、文化は市場はこうやってできていくんだってことを目撃できているってすごい。

「世界を変えた」というのは言い過ぎ――という声もあるしまぁわかるけど、でも世界って、主観だから。世界が変わったと思ってる人はいるから。ボーカロイドツールでもブームでもなくてカルチャーになってるのが、見ていて聞いていてわくわくする。

やっぱりこのCM、何度見ても好き。「たくさんの点は線になって」。(……でも育てたのはYouTubeじゃないじゃん、とは思ったしこれからも何度だって思うけど!!)

  • よろこびの歌

よろこびの歌

よろこびの歌

Kindleでセールになってて、女子校のクラス合唱が題材の群像劇か、と思って女子校モノ好きだから何の気なしに買った本。最初は普通に読んでたどころか、案外盛り上がり少ないな~文章きれいだから最後まで読むのはできそうだけど、というくらいの姿勢だったんだけど(ごめんなさい)、ある箇所で不意を突かれたようにボロボロ泣いてしまった。朝の通勤中の電車の中で泣いてしまって、反則だよ、と思った。

世界は68億の人数分あって、それと同時に、ひとつしかない。いくら現実逃避したところで、ここで私は生きていくのだ。

うーん、いざ説明しようと思うと困っちゃう。なんだろう、高校生のときってある日突然世界の真理がわかるじゃん。大きな事件とかドラマとかなくたって、本当にどうでもいいタイミングでパッと目の前が開ける瞬間があるじゃん。そういう小説。背筋が伸びる。泣いても笑っても怒っても投げ出したくなっても境遇を呪っても誰かを恨んでも、自分の人生を生きてくれる人は自分しかいないのだ。

  • 聖の青春

聖の青春 (講談社文庫)

聖の青春 (講談社文庫)

3月の電王戦をきっかけに将棋を見始めて、将棋好きな人にとりあえずこれを読め!と貸してもらった数冊のうちの1冊。大崎善生はわりと好きなんだけど、これは将棋題材だから読んでもわからないかな~と思ってスルーしてた。えーーーめっちゃおもしろいじゃん………。普通に後悔しました。

29歳で人生を閉じた天才棋士村山聖の人生の記録。どこまでがフィクション(脚色)でどこからがドキュメンタリなのか分からないけど、そんなのは問題じゃないくらい、生粋のゲームプレイヤーとしての高潔さにやられる。大崎さんのもったいぶっててガラスみたいな水晶みたいな文章がとてもよく似合う。読み進めると止められなくて生活に支障が出た。

しかし、天才の中のほんの一握りの天才しかプロになれなくて、子どもの頃に運命付けられた相手と何度も何度も何度も同じように盤を挟んで向かい合う、って、何その世界漫画でしょ、いやむしろ神話?って感じなわけですよ。わたしの中で将棋は黒子のバスケにめちゃめちゃ近いわけであって……(というとお前は何を言ってるんだと高確率で言われますが本気)。

やっぱり個人的には圧倒的に電王戦に興味があるのでまた3月が楽しみです。


知らないしわからないけど将棋を教えてもらうのが楽しい話 - インターネットもぐもぐ

 

  • 性欲の科学 なぜ男は「素人」に興奮し女は「男同士」に萌えるのか

性欲の科学 なぜ男は「素人」に興奮し女は「男同士」に萌えるのか

性欲の科学 なぜ男は「素人」に興奮し女は「男同士」に萌えるのか

前からタイトルだけは印象的だったから覚えていて、これもKindleで安くなっていたのをきっかけに買った。とにかくひたすらインターネットと人々の欲望をめぐる話をずうううっとしていてとても面白い。最高。世界は広い。

「性欲」って書いてあるけどもっと広く、萌えやときめきやフェチズムを科学していく。男女ポルノはもちろん、ゲイポルノ、やおい、エロ漫画、「絶対領域」、「ふたなり」、トランスセクシャル、ヴァンパイア、全部出てくる。身も蓋もない話をすると、どんな偏屈な嗜好を持っていたとしても結局人間は動物でしかないし、すべては脳神経の刺激とホルモン分泌で決められるのだな……と思える。肉体は抗えない。


まずもう目次からしてアツすぎる。「男は映像を好み、女はストーリーを好む」「圧倒的な少女たち、がんばっているMILF(日本語で言うと“人妻もの”に近い概念)」「なぜ手フェチじゃなくて足フェチなのか」「お尻や乳房など体ばかりに注目するのはなぜか」「女性は優秀な長期投資プランナーである」「ヒーローには『ココナツ』のようであってほしい」「ゲイの男を惹きつけるキュー ストレートの男と違うところは3つだけ」「求む、背が高くてお尻がカッコいい男」「浮気妻と素人娘は競争原理と本物志向の表れ」「男と女の性的欲望の本質を知る」「『むりやり女に変えられた』快感」「そして欲望はイリュージョンを生み新たな次元へ」――これでまだほんの一部、書き出すだけでおもしろくなってきた。すごいでしょ。

今まで性欲って研究対象にしにくかったけど今はみんなの本性がバレるインターネットがあるんだぜ!がコンセプトだから、検索ログからファンフィクションや動画のカテゴリから各種専門サイトの数からソーシャルブックマークのタグから脳科学や社会心理学の実験から次から次への生々しいデータ満載。

いきなりハリポタや指輪物語のBLが引用されるし、アダルトビデオや官能小説サイトについてるタグもガンガン解析してるし、「HENTAI」として世界に轟く日本のエロマンガが「脳にエロさをかきたてるキューがてんこ盛りでいいね!」って褒められるし、もうほんと全部入り。男と女はもう本能として理解しあえないんですね……と思ったあとに、じゃあゲイのみなさんの心と体の動きは?ってところに話題が移ったり、かゆいところに手が届く感じでかなり分厚いけど飽きずにどんどん読める。

男はひとつのキューだけで性的興奮を覚えるが、女はいくつかのキューが集まらない限り、性的興奮の基準に達しないし、基準自体も進化する。

(女性向けファンフィクション、つまりBL=スラッシュの話で)ヘビーなポルノ小説は「PWP」と呼ばれているの。PWPは「Plot? What Plot?(筋?筋なんてどうだっていいわ)」の略よ。

目に写る像や食べ物の味を組み合わせることで驚くべき効果があるのなら、セクシュアル・キューを組み合わせたらどうなるのだろうか?エロチックな作品でも「モナ・リザ」の微笑みに匹敵するようなものが作れるのだろうか?
きっぱり言おう。答えは「作れる」だ。
いくつかのセクシュアル・キューを組み合わせることで生まれる一種の知覚トリックを僕たちは「エロティカル・イリュージョン」と名付けた。

エロティカル・イリュージョン!!!最高!!いみわからない!!!(読めばわかります)いやー、おもしろかった。ちょこちょこ引用されてたこれも読みたい。

女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密 (進化論の現在)

女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密 (進化論の現在)

 

  • 幻の近代アイドル史

2014年一番おもしろかったのはやっぱりこれだ~~! 思いの丈はすでにたっぷり書いたので以下をご参照ください。


戦前のマジ恋“アイドルヲタク”の生態に迫る「幻の近代アイドル史」 - インターネットもぐもぐ


骨の髄まで超ミーハーなのでみんなが熱狂してるものになんでも首を突っ込みたいと思ってまた1年生きてた。それぞれの熱源を絶対に否定はしたくない、できれば一緒になってお祭に参加したい、と思ってそういう意味では真剣でいるつもりだから、金や情熱を注ぐ対象がくだらないって思われてもわたしは好きだし、同じように好きな人たちのことも好き。ヒップホップもアイドルもそうだけど、メインストリームからはある意味軽んじられがちな、下に見られがちな「くだらない」文化をきちんと見つめて解説して読みといてくれるものに元気出るし好んでるんだなってことが書きながらわかった。


2015年も「信仰の現場」をたくさん見たいし行きたい知りたいよ~~!というかここ数ヶ月新しいものを学んでいないのでフラストレーション。2013年は毎月1つ新しい何かに手を出すことを目標にしていたのでした。

今興味がある世界はゲーム実況(女の子たちの熱狂の根源をもっとちゃんと理解したい)、ディズニー(パークヲタにもいろんな視点があってすごいと聞いて)、Wikipedia(主なき戦争の世界)、ロードバイク(沼に落ちていく様をもっと仔細に聞きたい)、フォント(ハマるとどうなるの!?フェチズムにぞくぞくしたい)、アメコミ(作品としての魅力も二次創作の話もものすごく興味ある)……あたりなので教えてくれる人いたらお声かけください。それ以外でももちろんいいです。布教されたい欲。超前のめりに話を聞くのでぜひお茶してください。

信仰の現場―すっとこどっこいにヨロシク (角川文庫)

信仰の現場―すっとこどっこいにヨロシク (角川文庫)

2014年の振り返りはまた改めて。今年も元気です。