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インターネットもぐもぐ

インターネット、おなかいっぱい食べましょう




戦前のガチ恋“アイドルヲタク”の生態に迫る「幻の近代アイドル史」

明治・大正・昭和の若い男性をガチ恋させた存在≒アイドルの追っかけ生態をひもとく「幻の近代アイドル史」、最高におもしろかった。


ステージに向かっての名前や合いの手のコールの嵐、出待ち入り待ちでの牽制、目線を求めるレス乞食、執拗なファンレターと愛のささやき、親衛隊の結束、書簡でヲタ友とリプ(Twitterみたいだ)、新聞の投書欄で匿名罵り合い(はい、2ちゃんねるですね)……全部入りすぎる!人間はそうそう変わらないぜ!愛はいつだって人を狂わせる!!!!

本書は、戦前に「アイドル的存在」として活躍した少女たちについて書かれている。選出の基準は、主に若い青年を熱狂させ、ときに恋愛感情を抱かせたというエピソードを持つ少女たちである。

彼女たちは劇場や寄席が主な活動場所であり、ファンは足を運ぶことでしか彼女たちの芸能に触れることはできなかった。そういう意味では、彼女たちは「会いに行けるアイドル」であった。


義太夫の人気を作った天才少女・竹本綾之助、美貌と色気と“釣り”で数々の人生を狂わせた奇術師・松旭斎天勝、東京歌舞伎座トップ争い!27歳キレイ系実力派・沢モリノ VS ポンコツかわいい19歳・河合澄子、45歳有名評論家が激推ししまくった宝塚歌劇2期生・瀧川未子、戦火にのまれる東京で舞台に立ち続けた新宿ムーラン・ルージュのプロアイドル・明日待子――なんかが紹介されてる。どの章も楽しい。


全部紹介していくとキリがないので印象的なところを箇条書きにしていく。

  • 義太夫ヲタは曲の盛り上がりで「ドースル、ドースル!」ってMIXを入れるから「ドースル連」って総称
  • 「あ~他のヲタクみんな滅亡して俺とあの子だけになればいいのに、落第したって構うもんか」→マジで落第
  • 新聞の投書欄で某ちゃんねるのように匿名罵り合い→ゴシップ誌に実名職業すっぱぬかれて阿鼻叫喚
  • 家まで通ってガチ恋同士で牽制→本人は卒業後にイケメンで金持ちのヲタクとさっくり結婚 
  • 「綾之助たん、唄ってる最中に熱が入って髪が乱れてかんざしが落ちる瞬間めっちゃエロい!!!」
  • 熱狂的娘義太夫ヲタで知られる志賀直哉さんの小説より、公演後のヲタ友との帰路。「その晩、アウフ(推しメンの愛称)が何を語ったか覚えないが、二人の間ではアウフの話は決して尽きない。今、もし、この雪の中にアウフが倒れていたら、どうするか。この仮定だけで優に一時間の話題になった」

 

  • 天才釣り師、超絶かわいい!天勝様「ロックオンした人とは1回じゃなくて2回、目をあわせることがポイント。違う方向に動くときに振り返るようにあえて目線をやると、あいつは俺に気があるな!って思い込むようなんですの。そしたら明日も明後日もいらっしゃるのよ」
  • 結局、評論家は顔の好みと体のエロさとヲタクへの対応の良し悪しばっかり書いてる気が(マジで)
  • 川端康成「矢張り河合澄子は美しい。あやしげな幻の病的の世界に私を導かずに措かない。脚本はつまらない、幼いものである」
  • 男子高校生・川端くん、お前恥ずかしいものが好きなんだな…と呆れる友人に「むしろあんな面白いものを見に行かないなんて損してる」って真顔で言う

 

  • 45歳評論家「東京では1人も好きな女優なし、いま名古屋にいるが、気に入った芸者1人もなし、ただ遠く宝塚にわが瀧川未子あるのみ!」と高らかに単推し宣言
  • 単推しが高まりすぎて他メンのアンチや運営批判を繰り返す影響力あるめんどくさいヲタクに
  • 宝塚歌劇を真似して全国各地に「ご当地少女歌劇」がいっぱいできる(ロコドルだ!)
  • 新宿ムーラン-ルージュにおける踊り子→女優の「昇格」
  • 人気踊り子の写真をふところにしのばせた自殺者が出て警察沙汰になってヲタクが叩かれる

いやー少し並べただけでこの熱量ですわ……。


文章がうまくて読みやすかった。書き方自体もだけど、「アイドル」として位置づけるためにひっぱってきてる事例やエピソードが絶妙で納得感がある。もしかしたらその道の研究者の人から見たらもっと違うところもあるよ!ってなるんだと思うけど、この軸で切ってるゆえのデフォルメと取捨選択がすごく上手だな~って思った。

なので、アイドルヲタクは自分たちの普段の生活と照らし合わせながら「ちょwwご先祖さまwww」って気持ちで読めると思うし、普段からアイドルに全然興味ないとかこの数年で世間ででかい顔するようになって気に入らないわ~って人は、まぁ人間の精神性なんて百年やそこらで変わらないんだな……とある意味さわやかに絶望できると思う。ちなみにどの時代も目立つ厄介ヲタクが迷惑がられて叩かれています!!伝統!!

「これから軍隊に行かれる方、いらっしゃいましたらお手をお上げ下さい」と言うと、今まで遠慮がちだった者たちも次々と手を挙げていった。そして、舞台から降りて来た明日待子と踊り子たちは、一人一人の手を握って「ご苦労様。ご武運長久をお祈り致します」と眼に涙を浮かべながら挨拶をして回った。
(『ムーラン・ルージュ新宿座――軽演劇の昭和小史』)

すごすぎる。彼らにとってどんな希望なんだろう、この「握手」。大好きな彼女と会えるのは最後かもしれない。

何箇所か、妙にぐっときてしまった。
それぞれの時代の中でアイドル…というか、誰かに愛を注ぐことそれ自体、いったいどういう意味があったことなんだろう。

どの時代だってヲタクの嫌な面はクローズアップされがちだけど、多くの人はある一定の箱庭みたいな閉じられた「演者」と「ファン」の役割分担のなかで、キラキラしてる姿を見て明日も頑張ろうって元気だして、好きな子が笑ってくれると嬉しいなって思って、そうやって日常はゆるゆると続いていくわけでね。

きっと、同年代の他の芸能に比べて若者のくだらない戯れだと思われてたんだろうな~と端々から感じるのもおもしろかった。くだらないものをくだらないと視界から外したい気持ちもわかる。でもわたしは今のも昔のもくだらないと思われてるものがすごく好きだな~、もっと知りたい。愛してた人のことも作ってた人のことももっと知りたい。

あとね、こういうの残ってるの紙だからなんだよなあ。ネットにはあふれるくらい情報があるけど消えるものも多すぎて、実際残るもので言ったらそんなにないんじゃないかなって危惧がある。ほんの10年前のテキストサイトですら参照できないもんね。100年前の大学生のアイドルへのファンレターは残ってるのにね。

「いやいや明治どころじゃなくて江戸時代だっていろいろあるしむしろもっと遡れるでしょ!」って反応には確かに、と思ったけど、でもここが始まりだよ!っていう書き方をしているわけではないので、ただ明示的に「近代」って切ってるだけだと思います。

参考文献もたくさん載ってた。このへん読みたい。

知られざる芸能史 娘義太夫―スキャンダルと文化のあいだ (中公新書)

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スキャンダリズムの明治

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タアキイ―水の江滝子伝

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ムーラン・ルージュ新宿座―軽演劇の昭和小史

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