宮崎駿監督の引退会見のライブ配信を、昼下がりの会社でもそもそと遅いお昼を食べながら聞いた。
何の気もなくTwitterで流れてきたURLを叩いてイヤホンを右耳だけに突っ込んだけど、朴訥と紡がれる言葉のちからが強すぎてひっぱりこまれた。
裏を暴こうとするような、ちょっとでも本音っぽい言葉を引き出そうとするような、あなたのことをわかってるよとアピールする気持ちが前に出て空回りするようなものも含めて次々ぶつけられる質問に、力まずに、冗談交えながら、上滑りせずに、感情的にもならずに、それでも自分の言葉で実直に答える姿があまりにかっこいいと思った。
これだけ長時間話すのを聞いてほとんど初めて自覚したけれど、宮崎駿さんのスマートなのにギザギザした喋り方がどうしようもなく好きすぎる。あと40歳若かったらもっと本気で心奪われていたと思う。
「この世界は生きるに値する、それを子どもに伝えるために僕は映画を作ってきたんです」
— もぐもぐ (@mgmgnet) September 6, 2013
「この世界は生きるに値する」、この言葉にやられてしまって、午後はずうっと頭のなかにこの言葉が回っていた。
僕は児童文学の多くの作品に影響を受けてこの世界に入った人間ですので、基本的に子どもたちに「この世は生きるに値するんだ」ということを伝えるのが自分たちの仕事の根幹になければならないと思ってきました。それは今も変わっていません。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130906/k10014356461000.html
この後の部分でもう少し説明している。
「この世は生きるに値する」については、自分が好きなイギリスの児童文学作家にロバート・ウェストールの作品に、自分の考えなくてはいけないことが充満していて、この中で、「君はこの世で生きて行くには気立てがよすぎる」というせりふがありまして、少しも褒めことばではなく、そんなことでは生きていけないぞと言っているんですが、本当に胸を打たれました。
僕が発信しているのではなく、僕はいっぱい受け取っているのだと思います。多くの読み物とか昔見た映画とか、僕が考案したものではない。繰り返し言い伝えられてきたもので、ほんとかなと思いながら死んでいったのではないか、それを僕も受け継いでいるんだと思います。
「生きてるだけで価値がある」なんて手垢のついた生ぬるい感じでもなくて、「日々必死で生きてこそ」なんて励ましてるようで上から目線な感じでもなくて。とにかくお前のつまらない浮き沈みなんてどうであろうとこの世界はちゃんと生きるに値するんだぞってことだと勝手に思った。
年を重ねるごとに幸せになってる、今が一番楽しいって最近はずっと思ってる、もっと子どもの時の方がいろんなものを憂いていたように思う。就職控えた後輩の前で、これからの方が楽しいよ、案外悪くないから、とげらげら笑いながら、ほんとにな~オトナはつらそうなイメージだったのはなんでなんだろうな~ってこないだぼんやり考えてた。
これから何度も思い出すだろうし忘れない気がする。「この世は生きるに値する」んだぜ。
わたしも、自分より年下の人たちに全力でそう伝えようって思った。隙あらば刷り込んでやる。見てろよ。
他にもいくつも好きな箇所があった。
美術館の展示品というのは、毎日掃除しているのにいつの間にか色あせてくるんです。その部屋に入ったときに全体がくすんで見えるんです。そのくすんで見えるところを1か所きらきらさせると、たちまちそこに子どもたちが群がることが分かったんです。美術館を生き生きさせていくためには、ずっと手をかけ続けなくてはいけないことは確かなんで、それを出来るだけやりたい。
やりたいことはあるけど、やれなかったらみっともないので、何なのか言いません。それと僕は文化人になりたくないんです。僕は町工場のオヤジでして。だから発信したいとかあんまりそういうこと考えない。文化人ではありません。
監督になってよかったと思ったことは一度もありませんけど、アニメーターになってよかったと思ったことは何度かあります。
アニメーターというのは、何でもないカットがかけたとか、うまく水が描けたとか、うまく水の処理ができたとか、光の差し方がうまくいったとか、そういうことで、まあ2~3日は幸せになれるんですよ。短くても2時間くらいは幸せになれるんです。
監督は最後に判決を待たなくてはいけないでしょ。これは胃によくないんです。ですから、アニメーターは自分に合っているよい職業だったと思います。
アニメーションというのは世界の秘密をのぞき見ること、風や人の動きや表情やまなざしや体の筋肉の動きに世界の秘密があると思える仕事なんです。それが分かったとたんに、自分の選んだ仕事が非常に奥深くて、やるに値する仕事だと思った時期があるんです。その10年は何となく思い当たります。その時自分は一生懸命やっていたと。
自分は正直言って特にジブリのファンじゃない。見たことない作品もいくつもある…というか見たことないものの方が多い。
(と言うとびっくりされることもあるけれど、特にファンではない人間が見る機会は金曜ロードショーくらいしかなくて、それを逃すと人生に入ってこない気がする。わざわざTSUTAYAで借りてきたり友達に借りて見るほどでもないレベルに“みんなのもの”になっていて今さら出会うきっかけが見当たらない)
なのでますます、偉大な映画監督とか讃えられる文化功労者っていうより、わたしの中では「かっこいいじいさん」だ。同じ時代に生きてるのすごいな、ってじわじわと思う。
あと、きっとこだわりと美学の強い天才ゆえにいろいろ衝突もいざこざもあっただろうに、彼に惚れ込んで支え続けた人がいるっていうのはすごく美しいことだなって思った。まるでずっと昔の小説みたいに、真偽不明の伝説みたいに、きれいだ。
※補足
記事内で引用したのはNHKニュースの書き起こし(日本語がおかしいところは変えてる)だけど、“「日本のディズニー」と言われることについてに対する星野社長の回答”はじめ抜けてる部分が何箇所かあって、省略なしの質疑応答全文は多分こっち。
でも多少意味を組んで丸められているし、声と喋り方から伝わってくる、なんというか…凄みが奪われてる部分もあるので映像と音声を見たい人はニコ生タイムシフトでどうぞ。1時間半以上ある。
※追記
YouTubeにもあった。
宮崎駿監督の引退記者会見ノーカット - YouTube
※補足2
この産経新聞の写真、最高だと思う。
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/130906/ent13090621310022-n1.htm
最後に、「君はこの世で生きて行くには気立てがよすぎる」の出典元を。
- 作者: ロバートウェストール,Robert Westall,野沢佳織
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