「風立ちぬ」観た。
都心から離れた映画館の平日の遅い時間、今日も明日も同じような日々が続くってみんなわかってる気怠さとでも今ここにいる2時間はちょっと特別でしょっていう淡い甘さがあってガラガラでスカスカで活気がなくて大変好きです。最高。
なんか…わからん……すごくよかった気もするし全然面白くなかった気もするし終始ぼんやり見てた気もするし細かいところまで脳裏に残る気もするしまた見たくなる気もするし別に1回見たら満足な気もするしめっちゃいろいろ考えた気もするしなんにも揺さぶられない退屈な時間だった気もする
— もぐもぐ (@haruna26) July 31, 2013
出てきた直後。数日経ったけど相変わらずよくわからない(よくわからないのにブログエントリ書かなくてもいい気もしてきた)。
ネットでうろうろしてたら熱量感じる感想が多かったから、どこでロリコン全開シーンがあるのかなあ、泣かせにかかってくるのかなあ、と思って構えていたけど、気付いたらエンドロールで、なんだか拍子抜けした。ムカつきもイラつきも感動も号泣もしなかった。
でもネットの海に溢れる感想読むのは楽しかった。同じものを見て全然考えること連想すること違うのが創作の強度ですね。そして、御年72歳を迎える宮崎駿翁が作っていることありきでみんなが見てるってすごいことだなあと改めて思う。もはやわたしの中で映画鑑賞って作品自体への興味って以上に観た人たちがいろんなこと言ってるのを理解したいって気持ちが強い気がする。それがいいのか悪いのか、わからないけど。
世の中に甘えきってて向上心も協調性もない20代の女と人生の終盤に差し掛かった鬼気迫るクリエイターは見てる世界が違うんだなって、当たり前だけど当たり前すぎて普段あまり思い至らないところを考えた。いろんなものはそこに集約されるので、この後は深読みも分析も考察もしない毒にも薬にもならない感想をだらだら書こうと思う。ネタバレしかない。
一番好きだったのは結婚式のシーンだ。花嫁衣裳を着た彼女がしずしずと離れへ渡ってくる。近づいてくる足元だけが見えてて、きれいな着物を召した彼女の姿はすりガラスの向こうにうっすら透けてて、がらっと戸が開いて色が一気にぶわってなるあの瞬間。こういう瞬間て誰の人生にもあるよね。舐めるように思い出す一瞬の輝き。
堀越二郎さんに何度もときめいた。これからサバを食べる度にあのときめきが頭をよぎりそうで悔しい。骨はきれいだ、と自分からまくしたてるんじゃなくて、お前毎日それ食べてるけど、って言われて、見てくれこれを、ってなるのが大変によい。きっとそうやっていろんなものに美しさを見てるんだろう、深淵をのぞく感じでぞくぞくする。「牛は、すきだ」もずるすぎる。庵野秀明さんの声、わたしはとてもいいと思った、朴訥とぼんやりと、でもギザギザしていて、自分の美学で生きていそうな感じがした。金曜ロードショーには向かない声かもしれないけどぬるい夏の夜にはすごくよかった。
設計士としての仕事ぶり、美しかった。もっと描いて!描いてるシーンを見せて!と思ってた。ぼんやりした天才を理解できちゃう本庄とのやりとりや、「二郎!」ってファーストネームで呼び捨てにする上司との関係もすごくいいけど、あわよくば後輩に慕われてくれ……と思っていたので後半幸福になった。ものをつくるっていうのは誰かに伝えるってことだ。
自分にはわからないことを一心不乱にやってたり、一生懸命しゃべったりする人を見るの、うっとりする、とても幸せな気持ちになる。「あなたが仕事しているのを見ているのが好きなの」。「片手で計算尺を使うコンテストがあれば僕は優勝できるね」ってセリフも凄かった。2人のシーンはなぜかすべて、この時間と関係に終わりがあることを感じさせる。
ところで、キスシーンが多くてびっくりした。こんなにナチュラルに何度も。一般的にわたしは創作物の中のキスシーンが苦手なのだけど、例えばハリウッド映画とかのあんまり好きじゃないんだけど、この映画のそれはそこまで抵抗がなかった。でもエロいね。不思議だ。必然のなさこそがエロい。愛が溢れて、というより今ここにいる証拠を刻んでいく過程みたいに見えた。カウントアップしてくパラメータみたいに見えた。残された時間に少しでも。
菜穂子が都合のいいヒロインすぎる(意訳)みたいな意見もいくつか見たけれどそこまで思わなかった。命を尽きる瞬間を予期してる瞬発力ってあるんだろうなって想像はつかないけどぼんやり思う。「寝床で愛する人の帰りを待ち続ける1日」って、不思議な恍惚がありそうだ、憧れというわけではないけど悪くない気がする。恋愛を成立させるのは、エゴをぶつける勇気とエゴを受け入れる共犯意識だよね。
煙草は嫌いだけど煙草を吸う男の人の仕草はとんでもなく好きだ、どうしたらいいんだろう、と笑いながら話した友人がいるけれど、ああほんとに。指先が目線の先にあらわになるとか、マッチを擦る空気を震わせる感じとか、火を点ける瞬間一瞬伏し目がちになるとか、目を細めて煙を吐いて喉仏と肩が上下する様子とか、灰皿にぐりぐりと吸殻を押し付けるとか、一連の動き全部、自分にはできないぞと思って見ていた。執拗なほど何度も描かれて執念に似たものを感じた。
喫煙を肯定する…というと言い過ぎだけど、着実に社会でマイナな立場に追いやられつつあるこの行為、健康には悪くても所作としては美しいものだなって、その動きが体に染み付いてる人は減ってるけど、この時代には間違いなくオトナの男性のしるしだったんだな~って、残しておきたくなる気持ちもなんとなくわかるよハヤオさん、と思った。とはいえ薄いハイボールを煽りながら安居酒屋で大声で品のない話をしながらだらだらと時間をすり減らすような行為も同じ“喫煙”だから、まぁ、この感想すら美化されているとも言えましょう。
あと、夢ではじまって夢で終わるその構成に、「セピアにくすませたくない、モダニズムの東アジア的色彩の氾濫をあえてする」って断言してる色遣いに(だって主人公のスーツの色がピンクだよ?)、いかにファンタジーに寄せるかを考えて作っていたように感じたのだけど、批判の矛先として現実との齟齬をあげていることがいろいろ読んだ中にあったそれなりに多くて興味深かった。「実在の人物をもとに」っていうのは、そりゃまあ要素としてはそうなのだけど。
零戦が、当時のドイツやイタリアの軍用機が、彼のイデアなのかなって勝手に想像した。フィクションは現実を凌駕してなくて、現実を元に架空の機体を考えるんじゃなくて、一番美しいものを描きたくて、だから自分の世界にこうやって落としたのかなあって思った。
……とかいろいろ書いてきたけど、エンディングの荒井由実「ひこうき雲」の破壊力がすごすぎた。何もかもぶっ飛んだ。この2時間を経てこの曲を聞けてそれだけでとりあえずいい時間だった気がした。
【「風立ちぬ」主題歌】荒井由実「ひこうき雲」のカバーやリミックスまとめ - NAVER まとめ
(余談すぎますけど8月4日にw-inds.の橘慶太さんと12年間の交際の末ご結婚された松浦亜弥さんが歌うこの曲のカバーがとてもよいのでご一聴ください)
「確かに僕は矛盾に満ちているかもしれない。でも仕方がない。矛盾のない人間はたぶんつまらない人だ」
宮崎駿「時代が僕に追いついた」 「風立ちぬ」公開 :日本経済新聞
かっこいい爺さんだな。わたしは50年経ったらどんな景色見てるんだろうか。
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