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東京都庭園美術館「こどもとファッション」

東京都庭園美術館の企画展「こどもとファッション 小さい人たちへの眼差し」がすごくよかった。“「こどもらしさ」はこどもが作ったわけじゃない”ってコピー、超いい。子どもに着せていた服にフォーカスすることで、時代ごとに大人が子どもに向けていたまなざし、社会の中でどのような存在だったのかわかるのでは?という命題からしてすっごくいい。

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www.teien-art-museum.ne.jp


18~20世紀のヨーロッパ、明治・大正~昭和にかけての日本の子ども服の変遷から社会の変化や親子関係の変化を読み取ろうという視点で服や資料が並んでいる。庭園美術館さんは公式Twitterでたくさん発信してくれてて親切!ご興味ある方はTwitterをご覧ください、でこのエントリは実はもう用が足りる。コミケ期間中は、創作クラスタの皆様へ、というツイートもしていて、ちゃんと中に人がいる感じが素敵だ。


8月5日(金)は21時までの夜間開館(ありがたすぎる!うれしい!)で、お目当ては19時からのギャラリートークだった。展示内容はもちろんだけどお話もおもしろかったので自分のために簡単なメモ。

  • 担当学芸員さんは子持ちのママ。企画がスタートしたのは、島根・足立美術館学芸員兼ママ友から「こういうのやりたいと思ってる」と打診が来たこと(島根、神戸、東京の巡回展だった)。自分はファッションの専門ではないし、美術館自体も服飾について扱っているわけではないけどこの建物でやる企画として意義があると思ったので進めた
  • 子ども服は大人のものに比べてはるかに後世に残りにくいし、まとめて見られるチャンスが少ない。なぜなら、汚くボロくなることが前提なので捨ててしまうから。きれいなものは周りの誰かにお下がりとして譲る。きれいな状態で残ることはほとんどない(なるほど……)
  • 子ども服より残りにくいのは下着。これもなるほど…だった。そりゃ残しておきたくないよね
  • マリー・アントワネットとかロココ文化の頃は男の子も幼児期もドレスを着ていた。女子との違いはコルセットの有無。女子は2,3歳から小さなレディとしてウエストを締めあげられるけど、男子は5歳くらいで初めてパンツを履くことで“男性”になる。それまではある意味無性の存在
  • 女子ドレスはバックリボンで華やか、男子ドレスはベルト穴のようなものがウェストにある(あくまで展示してあったものの話)。あと見分けるポイントとしては袖口の折り込み方とか。大人の服をベースにアレンジしてる感じでおもしろい
  • ある時期までは子どもは大人のミニチュアでしかなくて、西洋の上流階級ではよだれを垂らしているような乳児でも金刺繍の豪華絢爛なドレスを召していた。すぐ汚くなっちゃいそうだ

  • 子ども服がジャンルとして登場したのはフランス革命
  • より着心地が良くて動きやすい自然体でいられるファッションが子どもから広がっていって、それから女性向けドレスとして古代ギリシャ・ローマ風の胸元からストンと落ちる、肌が透けちゃうような薄くて軽いシュミーズドレスの流行りにつながった(そうやって育った世代が大きくなって少しずつ常識が変わっていったって面もありそう)
  • 動きやすさ、を追求してスカート丈も子ども服が大人のものに先行して少しずつ短くなっていく。引きずるような長さからくるぶしくらいまで。ひっかかると危ないから
  • 19世紀半ばに子どもらしいファッションとしてエプロンドレスが流行る→「かわいいじゃん!」てなって大人でも流行る
  • スカート丈とかシルエットが変化していってもバックスタイルにリボンをつけるのは全体的に変わらないデザインでおもしろかった
  • 20世紀になると一気に「子ども服」っぽくなった気がした。多分ドレスから日常着に近くなる。絵本で見たことがあるようなファッションというか
  • コルセットを付けない文化も子どもから大人に広がっていく(定着したのは第一次世界大戦期くらい)
  • 昔から子ども向けのコスプレ衣装はある。20世紀前半?は軍服が人気。友達の誕生会にトルコやロシアの軍服風のお衣装でおしゃれする(かわいい)。今なら戦隊ヒーローとかプリキュアって感じなのかな

  • 日本ではやっぱり大きな転換は明治、和服から洋服へ
  • 明治初期のイラストを見ると男性はスーツやジャケットやハットの洋装、女性は大人は着物、子どもは洋服が多い。動きやすくてじゃぶじゃぶ洗いやすい素材。着物に小物で洋装をミックスさせてるのもとてもかわいい
  • 雑誌の定番付録の「すごろく」のイラストでファッションやおもちゃの変化が見える(楽しい!)
  • 「子ども」という概念は児童向けの雑誌や童謡の登場で強化された側面がある。大人とは明確に違う存在として扱われてることがわかる。無垢で自由ないきものとして礼賛的な視線が向けられてる。子ども観の変化と家族観(イエ制度ですね)の変化の重なり
  • 「子どもはこうあるべき」が少なからず現れているのが子ども服


展示の内容をまとめたプチ年表ももらえる。
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とてもおもしろかった。展示の命題としては大人の子どもに対するまなざし、なんだけど、ファッションの変化としては逆ベクトルの影響が大きいのが興味深かった。子ども服はコスト的にいろんなものにチャレンジしやすいのかな。小さいころの常識を持って大きくなっていくわけだから、世の中の「普通」の位置が変わっていくのもさもありなんだ。そんな視点で子ども服を考えたことがなかった。

庭園美術館は旧朝香宮邸のアールデコ様式の建物が本当に素晴らしく美しくセンスよく気持ちがいい空間なので、この中にちんまりとした服が並んでいる健やかさだけで、特別ファッションに興味ある人じゃなくても楽しめると思う。図録買えばよかったかな。8月31日までです。