ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンの生誕100周年展覧会が日本にやってきた。
横浜そごうで11月末まで、そのあと全国を巡回する。
朝日新聞社 - 生誕100周年 トーベ・ヤンソン展〜ムーミンと生きる〜
ものすごくよかった。本当によかった。ムーミンに特に何の思い入れもないけどだからこそめちゃめちゃおもしろかった。知ってるようで何も知らないから。
トーベ・ヤンソンは芸術一家の生まれで若い時から才能発揮しまくりで、はじめて仕事したのが15歳、幼少時の絵、学生の頃の作品もちゃんと残ってる。油絵も水彩も漫画も小説の挿絵も壁画も描く、立体模型も作る、小説もエッセイも書く。文字通り、アーティストだ。ムーミンもアート。
あまりに膨大な仕事の中で個人的にいちばんすきだったのは戦時中、政治風刺雑誌「GARM」に描いてる表紙のシリーズ。イラストのタッチも構図もカリグラフィー(毎号ロゴから描き変えてる)もどれもすばらしすぎてうっとりした。ものすごくかっこいい。
Tove Jansson's work at satire magazine Garm
“tove jansson garm”(画像検索)
油絵もパワーがあって静かなのにメラメラしてる。自画像が多いのが興味深かった。描くものはたくさんあっただろうに、あえて自分を題材にして描き続けてる。
展覧会のキービジュアルにもなってる油彩の自画像、ムーミンで売れっ子“漫画家”になったけどトーベ自身には強く画家だって自負はあって、でも仕事はそういうわけにはいかなくて、執筆に行き詰まったところで久しぶりに絵筆をとったやつだって話がよかった。初老の(当時61歳)の女性なのにすごく若々しくて目の前に立つと気持ちがいい。自画像って鏡を通して描くから、目が合うんだ、こっちに立つわたしと。数秒息を止める。そう、この人の絵ってどんなタッチでも何で描いてても不思議と全部に気品を感じる。背筋が伸びる。
他の絵を見てからムーミンを見ると今までと印象が全然違う。そして原作はけっこうさみしくて苦しくてつらいんだってことを知った。原画をひとつずつ追いかけながら、大人になるのはいいことだなと思った。何度でも同じものを新しい気持ちでいただけるね。
実は同じ展覧会をフィンランド・ヘルシンキに赴いた数カ月前にすでに見てて、その時に人生でほとんど初めてこういう空間で泣いたのであった。飛ばし飛ばし英語で説明を読みながらなんとなく理解したようなしてないような感じで、自分でもよくわからないままボロボロ泣いててびっくりした。特に気合を入れてたわけでもなく、せっかくやってるなら行こうかなって思って軽い気持ちできたのに、むしろトーベ・ヤンソンて人のことほとんど何も知らないのに。
絵を描くこと、自分には全然できないからいつだって魔法に思える。で、数多いる魔法使いの1人としてこの人はわたしの理想に近い、と思った。こんな風にいろんな手段でいろんな色でいろんな視点で世界を表現できたらどんな気持ちなんだろう。好きな画家って今までふわふわと答えてきたけどこれからはトーベ・ヤンソンて言いたいような気がする。
フィンランドでは図録が販売されていなかったのが、日本ではされてる。これがまたすっごくいい。あまりに仕事が多岐にわたるから1冊にまとめるの権利の問題とかで大変なのかなって思ってたけど、まさか日本語では出るなんて。
最後のページにトーベが使ってた大きなパレットの写真がある(展示もされてる)。いろんな色がこびりついていてきれいだ。黒いペン1本でも油絵の具でも、世界は何色で描いてもいいんだな~って気持ち。