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ポスト前田敦子探しの終わり

選挙が終わった。
そろそろ食傷気味な気は否めないけど、それでも1年に1度のこの狂気じみたイベントがやってきた。

今年の開票は、平日の武道館ではなく土曜日の日産スタジアムだった。7万人。すげえ。発表前にはコンサート、その開演を待ちながらフードコーナーでみかんミルクのかき氷(関係ないけど、みかんの缶詰っていうのはいつだって本当に幸福な食べものですね)を買って晴れて天気のよいのどかなスタジアムでピクニックみたいにフェスみたいに食べながら思った。あーお祭りだ。お祭。楽しいほうがいいじゃん。

指原莉乃さんが速報の1位をそのまま保った。2位は大島優子さんで3位は渡辺麻友さんだった。
渡辺さんは去年の2位から1つ、順位を落としたことになる。

はっきりいってファンの中でも賛否両論だ。明らかに今一番アンチが多い人がセンターに立つことになった。2ちゃんではひどいスレタイが並ぶしTwitterでヲタクやめる宣言する人もいるしなんかまぁ、大変。うん、祭っぽい。でも、多くの人が「指原センターwwwwうけるwww見たいwww」ってなればそれはどう見ても勝ちだろうなって思う。
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日産スタジアム、広かった(これは公式であがってた写真)。サイリウムではなくピンク色の旗が全員に配られて、明るい時間にみんなではためかせるのはほのぼの平和な感じでなんだか楽しかった。


個人的には肯定で、普通に楽しみ。
「今アイドルに求められてるものは一体なんなのでしょうか」。順位がコールされて真ん中のマイクに向かうまでのあいだ司会の人が短い紹介をする時に言ってた言葉がすごくいいと思った。指原さんが1位になって楽しい気持ちになったのはどうなるかな楽しみだなって思うのは、前田さん大島さんと明らかに違う評価基準で居場所をもぎとってるから、同じシステム運用なのにルールを変えちゃってるから。ハッキング。

そもそも「センター」っていう言葉が背負うものが一体いつからこんなに重たくなったんだって話になる。今年1月に公開されたAKBのドキュメンタリー映画のテーマも「センター」だった。プレイヤーとしてのメンバーはもちろんより前により真ん中にを目指すんだろうけど、見ている側としてわたしはフォーメーションがぐるぐる変わってセンターが固定してないアイドルも好きだし、別に絶対的にエースがいてほしいとも思わないし、むしろこの超多神教アイドルに関してはいろんなキャラクタがいろんな位置にいるのが楽しいよねって感じで眺めているので、いまいちそこに感情移入できなかった。「推してくれるファンがいる限り、その子がファンの人にとっての視界の中心でセンター」っていう振付師の先生の言葉もあるし、その通りです。

じゃあなんでここまで「センター」の意味が肥大化したかっていうと、一重に、そこには前田敦子さんが立っていたからじゃないかと思う。彼女が一度生で見ると何もかも納得しちゃう、凄まじい引力を持った圧倒的な「立ち位置0番」だったからで、おどおどした普通の中学生があの狂気じみた妖しいまでのオーラを纏うようになるまでのシンデレラ(…というか魔女)ストーリーこそがAKBが示してきた“成功”だったからだ。

そういう意味で、ずっと戦友だった(=ルールを共有してた)大島優子さんはもちろん、渡辺麻友さんや柏木由紀さんが1位になっても前田敦子の亡霊からは逃れられなかった気がする*1。「グループの顔としてふさわしい」ってなんだ。どういうことだ。指原なんかちょっとやだ、って思っちゃうなら自分がそう思う理由はなんだろう。その気持ち、要素分解するとどこに着地するんだろう。

指原莉乃さんは今マスメディアで活躍する仕事の幅から言えば明らかに「顔」だと思う。でもちょっと違う気がする。その違和感を考えるとどうしても前田さんの影が透けてしまうね。っていうか、この結果になるまで自分でもそのことをあまり自覚していなかった。ふさわしいセンター、を考える時、無意識に前田敦子さんを下敷きにしてるんじゃないか。不在の存在。

「…いやー、お腹を抱えて笑っちゃう総選挙なんてはじめて」。大島さんのスピーチ第一声のすべてを言い表した感! こいつには絶対負けたくない、と、こいつには負けても納得しちゃう、が両立する存在めちゃくちゃすごい。稀有な存在…なんていうの癪だけど(「さしこのくせに」!)居場所を自分で切り開いてきたの本当にすごいなあ。アンチがたくさんいるのもわかるし、わたしだって正直すっごく好きかっていうとそんなことない!!笑

でも、ハロプロを追っかけてた大分の女の子がアイドル好きが高じてアイドルになって上京して、すごく人気があるわけでもスター路線に乗るわけでもなくうっかり恋愛なんかしちゃったりしながらふわふわ活動して、秋元康の「あいつおもしろいじゃん」って気まぐれで与えられたチャンスをガッツリつかんで、いろいろ大変なこともあったけどアンチも目に見えて増えたけど、それでも「寒ブリ*2」として貪欲に切り開いて耕してちゃんとキャラをつくって、今持ってるものを評価されて一番上に立ったのは、違うシンデレラ(…じゃなかった、魔女)ストーリーだよね。肥大化した神聖化しちゃった「立ち位置ゼロ」が俗世に戻ってきたんだとしたらそれはそれでいいじゃん、って思う。……いや、指原さんはそれはそれで別の意味のバケモノなんですけど!

小嶋陽菜さんが直前のコンサートのMCで言ってたこともおもしろかった。「特定のライバルって言われてもぱっと思いつかないけど、でも指原はなー……だってわたし、指原に負けてるところ思いつかないですよ!?」。最初の問いに戻る。「今アイドルに求められてるものは一体なんなのでしょうか」。

指原さんは最後、前田敦子卒業直前の東京ドームコンサートのラストシーンをオマージュしたような白いフロートに乗って外周をまわった。ずっと手すりに捕まったまま、片手でトロフィーを持ってるから優雅なお手振りもできず、ありがとうと口パクしながらファンに微笑むこともせず、ぼんやりした顔でぺこぺこ頭を下げてたのを見て、あー彼女は前田敦子とは違うルールで生きるんだって思った。そのあと、1位の玉座に一瞬も座らずにハケた。だってフロートでまわってるあいだに他のメンバーみんないなくなってんだもん!笑 前田敦子大島優子しか座ったことない玉座、は、物理的にある意味守られた。おかしいね。おめでとう。

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もうひとつ。HKTに“左遷”されてから1年での指原さんの活躍は目覚ましかったし個人的には1年前より今のほうが好きだ。メンバーを一番近くでよく見て把握した上でキャラを引き出す手腕がすごい。プレイヤー兼監督みたいな感じ。秋元康が乱暴に強引に暴力的に、システムを使ってかきまわして結果としていろんなこと起こるのを観察する恨みや妬みを買うタイプなのと比較して、丁寧にファンの目線に立ってうまいこと回していく。実際、HKT劇場の支配人(運営統括みたいな)の肩書きを与えられたり、SKEの研究生で今度ソロデビューする子のプロデュースを任されたりして訓練を積まされてるように見える。秋元康の後継者として。……と言ったら言い過ぎだろうか? でも結局、この1年でそのプロデューサー能力を伸ばして買われて評価された結果、プレイヤーとして真ん中に立つことに着地しちゃったの超面白い。それは、誤算かな?

――秋元さんにはさきほどお会いになりましたか。
お会いしてないですね。さっきそこにいたんですけど。こうやっていました(両腕を曲げて同時に手のひらを空に向けて持ち上げるポーズ)。あんまり納得いってないんだと思います。(会ったら?)すみませんと謝ります。でも、総選挙は秋元さんが決めたことだし、こうなったのは秋元さんのせいだと。
http://www.asahi.com/culture/update/0608/TKY201306080301.html


正直言って、事務所票とかテレビ局票とか関係各所のさまざまな思惑が絡んだ何か、ないことはないんじゃないのと思ってるわけで、全部が全部ヲタクの力かどうかはわからないわけでそこまで無邪気に信じてないわけです。でも、そんなこと言ったら衆議院選挙だって自分の票が必ず反映されてるって確信ないよなー。出てきた結果でこっち側の意識だとか社会の仕組みとか景気とか、変わるのかな~って見守る気持ちが増大するのが選挙の意味じゃないですか。結果の妥当性というより受け止め方の問題になるっていうか。しかも、便宜上これは次のシングルのセンター決めるだけだからね~~「AKB48のこの1年を占う!」「これからを背負ってく指原!」的なアレは厳密には違うもんね。まぁ言われ続けるわけだけど。でも、お祭だから。ただの。ねえ。


今回のこの話と関係する部分もあるこの本、今読んでますがとってもよい。こんなくだらねーことにお金使って、の成り立ちと行方。もう少しで読み終わるのでまた感想を書きます。

AKB商法とは何だったのか

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追記:
大分時代の指原さんが大ファンだったBerryz工房熊井友理奈さんが今回の選挙結果を受けてブログで言及してる。ジャパニーズ・ドリームだなー。誰に何を言われるより、きっと一番嬉しいよね。

小学生の頃に
指原さんから頂いたファンレター、
今でも大切にしてます(^_^)!
本当におめでとうございます\(^o^)/
指原さん。|熊井友理奈オフィシャルブログPowered by Ameba

ハロヲタの指原さんははてなユーザーだったって話もあります。まだブログ残ってるんだ笑
関連記事:AKB48トップの指原莉乃氏は元はてなユーザー - ARTIFACT@ハテナ系

*1:大島優子さんに関しては、去年の東京ドームでの組閣(大規模な人事異動みたいなもの)でチームKのキャプテンに任命されたことでバックステージで叫んでた言葉、「えー、キャプテンになったらやめられないの?AKB」が個人的に重かった。やめた後どうするか、をさすがにもう何度も考えてると思うし、いい意味で自由になればいいけど、と思う。

*2:秋元康が指原のHKT移籍を決めた時にラジオで言ってた言葉。「指原は無理難題をやればやるほどいいんですよ。『寒ブリ』みたいなもの。冷たい海流の中を泳げば泳ぐほどしまる」