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「ワンピース歌舞伎」がバカバカしくて派手で大真面目でとんでもなく楽しかった話

スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース」に行ってきた。……期待の100倍よかった。本当に楽しかった!!!

全3幕、4時間半っていう長さなんだけど(歌舞伎だからね)全然飽きなくてずっと心のなかで「うわ~~!!!すげ~~!!!」ってなってた。感動したからちゃんと書き残しておく。

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最初に発表された時に行くしかない……と思ったのは、歌舞伎っていう表現スタイルにどう寄せてくるのか興味があったのもそうなんだけど、もう存分にネタです。ワンピースが歌舞伎になるよ~って言われてもどうなるのか想像つかないから見たい。もし全然ピンとこなくてもそれはそれで酒の肴になるじゃんね。

なのでそういうある意味邪な気持ちだったわけですが、でもその邪さを完璧に受け入れて、その上でもっともっと高いところを鮮やかに見せてくれるめちゃくちゃ楽しい時間だった。主演の市川猿之助さんが記者会見で「歌舞伎はそもそもバカバカしいのが売り、バカバカしい仕掛けで楽しんでもらいたい」って言ってたけどもう本当にその通りすぎだ。マジかよ!?って演出がいっぱいある。ルフィの手が伸びる演出とかまさにそのものだと思うけど……笑

mantan-web.jp
(写真がいっぱいある)


とにかくショーとしてとても楽しい。

客席の上を飛ぶ“斜め宙乗り”(ジャニーズ的に言うとフライングですね)あり、突然滝があらわれて水に濡れながらの“本水の立廻り”(ジャニヲタ各位にもおなじみの滝での殺陣)あり、なんだかよく分からないけど無鉄砲なまでのハッピーさで客席に降りていく演出(宝塚に近づけると階段降り~銀橋渡り的な高揚感)ありで楽しいものてんこ盛りすぎる。歌舞伎めっちゃ懐広い、と思った。難しくて退屈なものじゃ全然なかった。

私は歌舞伎見るの3回目で、過去は解説か予習がなかったら多分筋書きもよくわからなかったなと思うから、まずセリフを聞いててわかるかも不安だったけど、全然問題なかった。ほとんど現代劇。でも、語尾やお決まりの言い回しは歌舞伎っぽさがちゃんとあるのでその雰囲気を感じられて気持ちよさはちゃんとある。拍子木のチョンチョンした音、見得の瞬間のパキッとした音が聞けるのも、うわ~!って単純にテンションあがる。見得、ほんとかっこいい…キメるポーズがちゃんと歌舞伎!!

原作は、読んでいった方がわかりやすくはあると思う、ってくらい。サイトに「頂上戦争編」(51~60巻)てわざわざ明記してあってすごい親切…笑 いやいやさすがに10巻分は大変でしょと思ってたけど、シャボンディ諸島、女ヶ島アマゾン・リリー、インペルダウン、ニューカマーランド、海軍本部……って意外に端折らなくてびっくりした。尺自体が長いのもそうなんだけど、1人が何役も演じることが魅力になるんだな~なるほど~!って思った。衣装もキャラクターも性別も違う人に切り替わる振り幅。



市川猿之助さんはルフィとボア・ハンコック(!)とシャンクスをやるんだけど、正直えっ?どゆこと?て思ってたけど、全部かっこいいのだ。女方かっこいいよ~~~!!ルフィとハンコック、ちゃんと同じ舞台上に並ぶし、会話する。……としか言えない。早替えすごい。歌舞伎独特のギミックの視覚的な気持ちよさ!!その一瞬で、所作や色気が変わるのもぞくぞくする。

坂東巳之助さんのロロノア・ゾロは、刀を操って見得してキメるだけでかっっっこよすぎて泣いたくらいかっこいいんだけど、同じ人が2幕ではボン・クレーをやるわけで、こっちは動きも声も全然違ってすごくキャラが立っててやりきってて見てて超気持ちがいい。ボン・クレーってそもそも見た目が歌舞伎向きすぎるな…って思って楽しい。そんなこと思ったこともなかった。

中村隼人さんのサンジは写真を見てもらえればひと目で分かるので野暮な説明はしませんね。美しい。スーツの上に裾まで引きずるような長羽織なんだけど、光沢ある布地の半身が黒いファー、袖口から覗く裏地は金、表には銀の刺繍で立ってるだけでかっこよすぎてヤバかった、羽織をひらめかせながら長い足を蹴りだしてタバコをもった手と背中を美しく曲げる。ひゃ~~。この人も93年生まれだものな……華の93年組。

エースは物語の都合上、終盤まで出番があんまりないのですが、待ったかいがある素晴らしい見せ場の連続でたまらなかった。好きになるでしょこんなの。福士誠治さん完全にメラメラの実の能力者だった。あの大事なセリフもあって、知ってるのに胸が詰まる。見せ方でいうと、歌舞伎的な殺陣をするルフィの横でエースはガチのアクションする対比作ってきてるのがおもしろかった。客演俳優として、なんだけど、ルフィとエースのスタイルの違いにちゃんと見える。

原作と全然違うビジュアルで、すっごくいい、と思ったのは白ひげ。きっちりした和服で固めて、ものすごく歌舞伎的な造形にしてきてるんだけど、白ひげすぎる。で、市川右近さん自身がとてもとても迫力があって圧倒される。白ひげだ……。筋書き(パンフレット)で「今年で市川右近になって四十年」「これから先は、師匠から教えていただいたことを次の世代に伝えていく使命がある、そういう意味でも劇中の白ひげと重なる」って言っててしびれた……。この白ひげが見せてもらえただけで満足感ありまくる。

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(外もワンピース仕様です)


そもそもワンピースって、物語の構造としては海賊がヤクザになり変わった任侠ものだから、アウトローな人間を描く歌舞伎って世界観に似合うんだな~ってしみじみ思った。漫画の中で書かれるエモくて長文のセリフが、口上として音になるから舞台の上で浮かない。

尾田栄一郎さんから寄せられた言葉にも、歌舞伎は格式高い伝統芸能というイメージがあるけれど「大衆に向けられ、世に反する『かぶき者』達を描くことに端を発した総合芸術」「実は僕の目には、歌舞伎役者の方々が海賊に見えてしかたないのです」という一節があるし、坂東巳之助さんは「子どもの頃から原作読んでて絶対誰かが歌舞伎でやるだろうと思ってた」って言ってるし、思ったより当事者としては近しいのかもしれない。その感覚を、見ているうちに客席も少しずつ共有していく感じがした。


かなり分厚い筋書き、本当に内容が充実してて、これを読めて理解できるだけでもうれしい。静的なものを舞台の上でどう解釈するかのプロセスに興味がある。「正気なの?」(原文ママ)ってところから制作陣もはじまっているこの舞台を作る中で何を考えていたのか読むと、歌舞伎っていうノウハウの凄みを感じる。コンテンツに負けないし、コンテンツを歪めない。

たとえば、麦わらの一味の登場シーンは歌舞伎の『白波五人男』の勢揃いなんですよ。やっぱり歌舞伎の人間でなきゃできないものが散りばめられている。歌舞伎を知っている人が見れば「ああ、なるほど。こうやって歌舞伎よりに持ってきたんだな」と思ってもらえるんじゃないでしょうか(市川猿弥)

歌舞伎十八番の『暫』や『毛抜』のように「すごい」「かっこいい」と理屈抜きに楽しんでいただければいいんじゃないでしょうか。漫画は現代日本で生み出されたエンターテインメント。歌舞伎から磨かれていった感覚が漫画になりアニメになった。今回は、それをもう一度歌舞伎に戻す作業だと思ってワクワクしています(坂東巳之助


女方についてもおもしろかった。
そもそも、男性だけが舞台に立つ歌舞伎の文脈で女だけの島「アマゾン・リリー」を選んでることもおもしろかった。

はっきり言って“オジサン”が(笑)漫画のなかの女性を演じるわけですからね。(中略)決してコスプレショーにしてはいけないとも思うので、顔も体型も原作に寄せることはできないけれども、原作とは違うけれども、やはりナミだな、サンダーソニアだなというものが、どこか臭ってくるようにしなければいけない。そこは、女方の色々な技術を駆使して、乗り切っていくしかないだろうと思っています(市川春猿

歌舞伎の女方には、本物の女性に近づくのではなく、別の方法で女性らしさを出すというひとつの理念がある。リアルではなく嘘のほうに持っていくこと(中略)その理念に則った方法で、『ワンピース』のキャラクターも演じることができるのではないかと思うんですね(市川笑三郎


よく漫画原作ものに言われる「原作に忠実」って言葉についてもいろいろ考えた。
ピンクの着物で前帯のナミは艶やかで、甲冑に身を包んだ白ひげはあまりに白ひげだけど、原作に忠実かって言われると別に違う。でもとてもいい。当たり前だけど、どれだけ造形を近づけるかじゃないんだよなって思った。じゃあその言葉の本質はなんなんだろうなー。リスペクトがあるかないか、と言えば簡単なのだけど。きちんと咀嚼して、こちら側の文法できちんと再構築する努力が伝わってきたのが、ずっとドキドキしてた理由かもしれない。新しい物を見ている。

しかも現代語で上演する。だからこそ歌舞伎とは何なのかが問われると思うのです。歌舞伎俳優は歌舞伎俳優として存在を自問自答する。でも、それはあくまでも俳優側の思いであって、見てくださる方は理屈抜きで楽しんでいただきたい(市川猿之助

おそらく歌舞伎というのは、四百年前からこうやって、その時代その時代の“今”を作品にしていくという取り組みをしてきたのだと思います(市川弘太郎

ちびっこ連れた家族連れ、一緒に来た友達とコレクション缶バッジ交換する男子グループ、おそらく普段から歌舞伎を見ておられるのであろうおじいちゃまおばあちゃまのご夫婦まで、客席にはいろんな人がいて、いろんなところでいろんな会話が生まれてて幸せになった。「初めて歌舞伎見に来たけどこんななんだね」とか「わたしは漫画を存じあげないのだけどお好きな方から見たらいかがなの」とか「他の演目でもあんなふうに水を使うんですか?」とか。楽しい。新しいものに触れるのは楽しいね。

「歌舞伎らしさ」ってなんなんだろうな~。思い描いてた歌舞伎!な部分と、こんなことやっちゃうんだ?っていう部分のバランスがよくて、違う演目も見たくなったし、歌舞伎っていうジャンル自体への興味も強まった。たくさんの歴史がつながって今に至ってて、今も新しくなってるのすごい。もっと知りたい。


新橋演舞場で11月25日まで、まだ平日はチケット買えるみたい。
16時半開演なので多くの勤め人は定時後じゃ間に合わなさそうですが、でも絶対すごいもん見たなって思えるよ……!

www.onepiece-kabuki.com


追記

市川猿三郎さんのブログの演出解説がとてもよいです。blogs.yahoo.co.jp

ここに「値段」と 「登場人物の変化」によって 時間の経過が歌舞伎的に
短縮表現されているのです。

ですから、60万ベリー ○百万べりー ○千万ベリー 1億ベリーという 
本来はこの流れがあるのだと ご解釈下さいませ。

短縮されている中にも その間の経過を ご覧のお客様に 想像頂くというのは
歌舞伎では使われる手法なのです

さらに ルフィーが登場してから麦わら一味の各自の名乗りは 
ご存じ『白浪五人男』の「つらね」であります。

途中のナミの名乗りの肌脱ぎは、もろ弁天小僧菊之助の応用、
チョッパーで人形からの変化の登場あたりは これまたご存じ『義経千本桜』の応用ですね(笑)