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「ホテルローヤル」は壇蜜小説

桜木紫乃さん「ホテルローヤル」、読み終わった。今っぽい小説だって思った。恋愛小説のようにも官能小説のようにも見えるけどこれはどう見ても、生活だ。泥くさいほど日常だ。

桜木紫乃さんは「ラブレス」も読みたいと思ってたんだけどあらすじを見ると暴力が出てくる話のようで、個人的に大変に苦手なのでやめてた。でも周りに彼女の小説を好きな人が何人かいたので名前は知ってて、「ホテルローヤル」は表紙で気になってた。本屋で。なので、受賞の報を聞いた時すぐにKindleに落とした。ミーハーでしょ。電子データで買えるの超楽ですね最高です。

1本目の話を読み始めてすぐに、あれ、なんか既視感がある、と思った。途中で気付いた。壇蜜壇蜜さんのグラビアを見ている時、インタビューを読んでる時の感覚に似てる*1。うわー、壇蜜文学。すごく今っぽい。うーん、なんて言えばいいんだろう、隠微だけどエロじゃない、官能だけどポルノじゃない。どうしようもなく地に足がついてる感じ。壇蜜さんの凄さは文字通り「団地妻」感があるところでそれはやっぱり生活でしょう。

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女性視点から性的な側面を書く時って「女の性欲をポジティブに捉える」とか「快楽や欲望を肯定する」みたいなところに行きがちな気がするけど、この小説に出てくる女の人たちは徹底的に見られる対象だ。全然主体じゃない。彼氏に懇願されてヌード写真撮らせちゃったり、ラブホテル経営したり掃除したりしながら男女のアレコレのしっぽの部分が毎日ちらつく中で生きてたり、するの、性的なものが没頭する対象ってよりただどうしようもなく日々に埋め込まれてるものとしてて描かれてて、いい意味で温度が低いままでよかった。

壇蜜さんにもそういうところある気がする。嫌々やってるわけではもちろんないんだけど、喜ばせる相手はお客さんで、自分のためじゃないみたいな印象を受ける。プロのお仕事だなって思う。その淡々とストイックなところ、よくわからないけどもっと緻密に組まれてるように見えるエロスが、結構えげつないことしてるのに下品になりきらずに終わる理由な気がする。客観的に、商品として、自分を見てる感じ。その感覚は今っぽいなって、なんとなく思う。距離のとり方っていうのかな。全部わたしのイメージなのですけど。

話は全然小説と関係ないけど、壇蜜さんのグラビアとインタビューで今まで印象に残ってるのは小島慶子さんが撮ってるやつだ。小島さんが彼女を評して「本当は、エロスの前にかわいいの人なんですよ」って言ってるんだけど写真を見るとその意味がすごくわかる。ああこっちの人なんだねって思ったからよく覚えてる。女の人が撮るとこんなに質感と表情の切るポイントが変わるんだ~って思った。
壇蜜『女どうし~男たちの知らない壇蜜』 - グラビア - 週刊プレイボーイのニュースサイト - 週プレNEWS


桜木紫乃さんの受賞後インタビューがよかった。

「本気で、踊っている踊り子さんから受ける印象というか、20分の間に起承転結して、お客さんを満足させる。見せるための裸って、よく作られた短編小説みたいって初めて見たときに思って、それから好きになったんですけれども、私もかくありたいと思っていて」

ストリップが好きだという話。
見せるための裸って短編小説みたい、という感覚よくわかる。よくできた青年誌のグラビアは、見せる側と見る側と制作側の関係と視線がカチッと決まっていて見ていて安心できる。よくできていないグラビアはどこか一方向へのキモチワルイ媚びが全面に出ていてバランスが悪い。

--今回、ラブホテルが舞台だが、舞台にした理由は?
「実家がラブホテルなんです。いつか、ここを舞台に、書きたいなとずっと思っていたので。うーん…」
〈机に視線を落として、しばらく間を置いた後、言葉を続けた〉
「10代から見てきた舞台裏なんですよね。色んな人と出あえる場所でもあったんです。働く人でも、本当に色んな人を見てきたと思う。親の手伝いをしている時間で、あの時間が財産だったと思うことができます。ホテル屋の娘に生まれてよかったです。ふふふ」

「ホテルローヤル」、そのままつけたんだ。自分の小説のタイトルに付けられるようになるまでどんな逡巡があっただろう。なんだかぐっときてしまった。

ホテルローヤル

ホテルローヤル

Kindleだと400円くらい安い。

*1:書いてて気付いたけど、習慣になってると言える程度にはわりと好んで週刊誌のグラビアを眺めている気がする……。好きなの嫌いなのかなりハッキリあるから(それはわたしが女なのもあるかもしれない)もう少し考えたい