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映画「ソーシャル・ネットワーク」を見る前に予習をおすすめするものたち

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東京国際映画祭、特別招待作品として来年1月公開の「ソーシャル・ネットワーク」見てきました。
すっごくよかった。終始にやにやしてしまった。頭のいいひとたちのマシンガントーク!すばらしい切り返し!会話の密度の濃さと速さ!


ご存じの方も多いでしょうが、まずはあらすじを。予告編も以下の公式サイトにあります。

2003年、ハーバード大学に通う19歳の学生マーク・ザッカーバーグは、親友のエドゥアルド・サヴェリンとともにある計画を立てる。それは、大学内で友達を増やすため、大学内の出来事を自由に語りあえるサイトを作ろうというもの。二人で始めたこの小さな計画は、瞬く間に大学生たちの間に広がり、ナップスター創設者のショーン・パーカーとの出会いを経て、ついには社会現象を巻き起こすほどの巨大サイトへと一気に成長を遂げる。一躍時代の寵児となった彼らは、若くして億万長者へと成り上がっていくのだが、その裏ではカネ、女、そして裏切りの渦に巻き込まれ、最初の理想とは大きくかけ離れた場所にいる自分たちに愕然とする。

日本を含む世界の登録者数が5億人を突破したと発表した“Facebook”。数年以内には、登録者数が10億人に到達する可能性があるとも言われている。いまなお急成長を遂げている巨大帝国の裏側と真実に迫る話題作。

ソーシャル・ネットワーク|2011.5.25 Blu-ray&DVD Release

原作

日本語での原作もありますが、読んでいく必要は特にないと思います。話も人物も比較的わかりやすいと思うし、スリリングに進む。
でも見たあとで気になるところがいくつもあるからわたしは映画見てからチェックすることにする。


<追記補足>
もう一冊、1月に発売された本を追記で紹介しておきます。
上の映画原作はややスキャンダラスな論調で書かれていますが、こちらはもっとジャーナリスティックに、Facebookが社会に与える影響、何を変えてきているのか、これから何をどう変えていくのか、について考察しています。
「インターネットはFacebookになる」という言い方もちらほらされていたりして、Facebookを考えることはインターネットの未来を考えることと近似ですよね。
いろんなところでレビューや評価を見ても、こちらのほうがずっと評判がよい印象。
原題で見ても、上のものが"The Accidental Billionaires"、こちらが"The Facebook Effect"です。このニュアンスは大事な気がする。
Amazon.comで"Facebook"で検索すると1番に出るのはこちらです。かなり評価も高くなってます。
洋書で読むのもおもしろそう。(読んでないけどたぶん)日本語でもカタカナとして馴染みのある単語が多いので、こういうことに興味ある人には英語でも読みやすい気がします。案外安いですね。
 


で、話の流れよりも社会的背景のほうがこの映画を読み解くうえで大事な気がしたので、より理解を深めるために読んでおいたらいいんじゃないかしら、と思うものを集めておきます。
スピード感が勝負の映画なので、背景がわからないと没頭できないかもしれない。
もしかしたら原作にはきちんと説明されているのかもしれないけど、わたしが今まで読んできた記事から拾いあげてみました。

Facebookとアメリカ

Facebookのイメージダウンにつながりそうだからマーク自身はあまり肯定してない、と聞いていたのですが、あまりそうは思わなかった。これは世代によるものなのかネット社会への親和性によるものなのか、とても気になる。
ただ、そもそも日本では「そろそろ流行るかしら?」と言われてる段階だけど、アメリカだともうその時期はとっくに過ぎて、プライバシーや社会問題的なものが生じています。だからこの映画の受け取り方は日本国内とアメリカ国内でだいぶ違うのかもしれない、ちょっとそのへんはよくわかりません。知りたい。
アメリカと日本のポスターの違いも、おもしろくないですか?一番上にあえて並べてみました。
話題になったものだと、こんなニュースでしょうか。
Facebookのプライバシーポリシーについて理解しておきたいこと:米国で退会者が続出している理由 - the Public Returns - 続・広報の視点
大学寮で同性愛「性行為」隠し撮り ネットにさらされ男子学生自殺 (1/2) : J-CASTニュース


「懸念」「ダメージ」の面をきちんと解説してくれている町山智浩さんのポッドキャスト。
TBS RADIO 2010年10月22日(金) 映画評論家 町山智浩さん - 小島慶子 キラ☆キラ
Facebook自体の説明も簡潔で映画の概略もつかめると思います。ラジオ音源なので、ネットユーザー以外の人にもわかりやすい感じかな…だいたい20分くらい。わたしは映画見たあとに聞いて、自分の意見と比べるのがおもしろかったです。ネタバレはないので聞いてから見てもだいじょうぶだと思います。でも先入観にはなってしまうかも。「陪審員になる映画」という表現はなるほど。

Facebookの拡大普及戦略

Facebook創設者のMark Zuckerberg氏は、ハーバード大学在学中の2004年、ハーバード大学の学生向けのSNSとしてFacebookの運営を開始した。Facebookは運用開始後数週間でハーバード大学の学部生の半数以上を獲得し、その後全米の大学に対してサービスを拡大してゆくこととなった。当時、参加者は大学生に限定されており、ユーザ登録を行うには教育機関であることを示す.eduドメインのメールアドレスが必須であった。
Facebookは大学生限定のSNSとして急成長し、かなりの割合の学生が加入し、社会現象として話題となった。学生の情報共有やコミュニケーション、人脈を維持・拡張するためのツールとして学習や研究、就職活動など学生生活のあらゆる面に活用されている。その後、一部の高校および企業、組織などのネットワークからの登録も受け付けるようになり、登録ユーザ数はさらに伸びていった。

Facebookとは【フェースブック】(FB) - 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典 (ちょっと情報が古いので数字は割愛)

大事なのは「学生限定」ではじまったということで、その意味で日本のネットサービスの普及とはだいぶ色が違います。そして「女ならみんなハーバードの男と付き合いたがる(劇中のせりふ)」ステータス性。映画のなかではあれよあれよというまに、オックスフォードにもケンブリッジにも、という風に描かれていますが各所「一流大学」を攻めていったのですね。


ぜひ映画館に行く前に読んでほしいのはこれ!!
macska dot org » Facebookの普及に見る米国の社会階層性と、『米国=実名文化論』の間違い

その後のFacebookの拡大も、排他性と特権性をうまく利用したものだった。ハーヴァード大学の会員数が飽和状態に達したFacebookは、まず同じボストン近辺の他のエリート校に対象を広げ、次にそれよりややレベルが下がる大学、そして普通の大学一般、高校、最後に所属に関係なく誰でも参加できるようにした。こうすることで、当初はハーヴァードや他のトップクラスのエリート校だけという排他性と特権性によって参加者を集め、次にそれより少し下の階層の人たちに「エリートと同じところに並べる」という優越感を与えながら、段階的にユーザ数を増やしていったのだ。つまり、Facebookは人々に米国的な「社会的上昇の物語」を疑似体験させることを通して、実名登録制への抵抗を意識させずに、順次拡大していった。

大変にわかりやすい!これを読んでわたしはやっと意味がわかりました。ちょっと長いけど読んでみてください。これがわからないと映画のあのスピード感にリアリティがないように思います。

アメリカの大学と「社交クラブ」

前述の記事にも登場する「フラタニティ」「ソロリティ」(前者は男性、後者は女性のもの)と呼ばれる「社交クラブ」もけっこう大事です。劇中だと"club"という呼び方をされています。
Wikipediaの解説がとても詳しくて驚いた。

他の多くの大学生組織の中では大変珍しいが、社交フラタニティソロリティのメンバーの多くは広い住居や複合アパートで一緒に暮らしている。これは二つの目的に役立つ為である。まず、メンバー同士を「兄弟」・「姉妹」と呼び合ってお互いの硬い結束を強調するためである。さらに、住居はクラブのイベントや運営の中心的な場所として適っていることが挙げられる。

フラタニティとソロリティ - Wikipedia


この構造がわからないとパーティしまくってる「アメリカ版リア充」に広げていくnerdgeekじゃなくてnerdと称されていた)のマーク君、と受け取ってしまいそうな感じがしますがもっと階層的なことらしい。
寮とは別にclubが機能していることはとてもおもしろい対比だなあと思った。clubはメンバーじゃないと、入り口までしかいれてもらえない。マークは寮のルームメイトと、Facebookを作るんですね。ハイネケンの瓶がぎゅうぎゅう詰めになった冷蔵庫をあけて、瓶を放り投げて渡しながら、しゃべりまくるわけです。自分の構想を。ラップトップとモニタの前で。


以下ご参考まで。下の記事に載ってるパーティの写真とか、まさに劇中に出てきたような感じですねw
フラタニティーとソロリティーについて - Yahoo!知恵袋
アメリカ大学の社交クラブの実態。|あねごカウンセラー・なつ美のマインドフルな生活


Facebookに関する論考はいろいろ出てますが、この視点はとても興味深かったので挙げておきます。
今の話に関連して「ジェネレーションY」という言葉を使って斬っています。
マーク・ザッカーバーグは、ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズより、バラク・オバマと比べるのがおもしろい気がしている。
[JMM]「フェイスブック世代の光と闇」from 911/USAレポート/冷泉 彰彦

このザッカーバーグに代表されるアメリカの「ジェネレーションY」が史上空前のベビーブーマーとして、アメリカ社会を「我が物のように闊歩」している、その世代の厚みの勝利ということがあります。生まれながらにしてITに親しみ、ITを使いこなすことで巨万の富を獲得したり世界を動かすことができるという90年代のドラマを見て育った「Y」の世代の「全能感」は「自分こそ世界の中心」という自己肯定感につながり、それが「コソコソ匿名で隠れる必要なし」というアッケラカンとした実名主義になっているように思います。

ベンチャーと資金繰り

劇中でベンチャーキャピタルやエンジェル(個人の巨額投資家)との駆け引きが出てくるのですが、日本ではベンチャーを立ち上げるイメージがあまりないのでわかりにくいかもしれないです。あまりこのあたりは詳しくないので詳しく言及するのはやめて、参考になりそうな記事をいくつかご紹介するに留めます。


エンジェル投資家が米国経済を救う:日経ビジネスオンライン
On Off and Beyond: シリコンバレーはエンジェル投資バブルです
日本へ:経済を立て直すには失敗した起業家を尊重せよ


劇中ではどんどんユーザーが増えていってサーバーの増設も大変!というときに広告戦略を早めに仕組んでいこうとする友人と、「クールじゃない」から広告はまだ時期尚早だというマークの差がすごく重要な分岐点とされてます。誰から、どのくらいお金をもらうか。
ネットビジネスに興味があるひとはこの資金調達の文脈はかなり参考になるのでは。

どこまで「事実」なの?

フェイスブック創設者のマーク・ザッカーバーグ、映画『ソーシャル・ネットワーク』にダメだし? - シネマトゥデイ
あくまでも、ドキュメンタリじゃなくて「実話を基にしたフィクション」なので注意。原作はマーク自身は取材に応じてくれなくてエドゥアルド(co-founder)に協力してもらったらしいです。
脚色はあるだろうけど、正直どこが脚色でも構わないな。本質を際だたせるための脚色な気がするので。これを読むと最初の導入部は事実じゃないみたいだけど、すっごくいいです。
ガールフレンドがマークに言い放つ「話が飛んでついていけない」という言葉、いろんなものを象徴していると思う。


さて、以上です。とてもいい映画だったのでまたDVDになったりしたらじっくり見たい。
2時間以内という制作制限を付けられた上で分厚い原作を脚本に落としてある作品なので、かなり密度が濃いしスピードがはやい!
すべてでなくてもいいので、軽く予習してから行くとより面白く見れると思います。


[追記]

というコメントもいただいたので追記します。

1999年1月に発表された、インターネットを通じて個人間で音楽データの交換を行なうアプリケーションソフト。また、同ソフトの開発・配布と楽曲リスト共有サーバの運営を行なう同名の企業。あるいは、同社が2003年10月に開始した音楽配信サービス。
(中略)
Napster登場当初はアメリカの大学生の間で大流行し、回線への負担の大きさから利用を禁止する大学が続出し、話題となった。Napsterで流通している音楽データの多くが市販のCDなどからの違法コピーであることから、Napster社は全米レコード工業会(RIAA)に著作権つき楽曲データの発見と排除(事実上の運営差し止め)を求め提訴され、2000年7月に敗訴、サービスを停止した。

Napsterとは - 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典


日本ではあまり馴染みがないですが、napsterは全米に一気に広まったサービスとしてはFacebookより先を行っています。両者の共通点としては以下が挙げられます。

  • 大学生が仲間と立ち上げた
  • 各種社会問題(著作権やプライバシー)につながり反発も強かった
  • 多額の訴訟問題


具体的なサービス内容としてはこの記事を見たらイメージが湧くかな〜と思います。日本でやったらいっしゅんで閉鎖されそうなサービスですね。これが2000年以前にあったという驚き。
Napster Japan が終了したので Napster US を使ってみた : peacepact


※なにかほかに予習を推奨するポイントがあればコメントで言及ください。