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クロコダイルの午睡、猫と君のとなり/『大きな熊が来る前に、おやすみ。』(島本理生)

島本理生のはじめて読んだ小説は「リトル・バイ・リトル」
綿矢りさ金原ひとみがW受賞した時の芥川賞にこの作品もノミネートされてた。当時みんな19歳だろうか、若い女の子が3人も…と思ってノミネートの段階で3冊ともチェックしてた。
綿矢りさ金原ひとみの書く小説に対して、ああこの人たちはこれからもこういうのを書き続けるんだろうな、という印象を抱いたのに対して、島本理生はいい意味でつかめなかったの。まだまだ化けそうと思った。自分で色を塗り直していく感じがした。


ものすごい恋愛小説を書く。よしもとばななでも江國香織でも唯川恵でもないの。
どろどろしてるのに妙に明るい。でもとても痛い。
いちばんすきなのは「生まれる森」の熱を出して寝こんでしまうシーン。風邪をひくたびに思い出す。ふらっとしてふわふわしてるくせに視界があざやかな感じ。
島本理生読みたいなーっていうときがたまにあって、そういうときは彼女の小説じゃないとだめだ。雨の日に読みたい。暗い気持ちになりかけているときに、あえて燃料を与える。


「大きな熊が来る前に、おやすみ。」は単行本のころからタイトルで惹かれてたんだけど、文庫になっていたのを見つけて生協で買ってしまった。新学期始まってすぐの雨の日に。
短編集だけど、すごかった。なにこの熱量。もはや執念に近いような。気迫が増したというか。
感想はうまく書けない。引用もうまくできない。切り取るだけじゃうまく伝えられない。
みんなあまりにもいびつすぎる。激しくリアリティのあるファンタジーです。

ああ、と私は心の中で痛感した。私は、この子のことが嫌いだ。それも彼女だけが嫌いなんじゃなく、彼女に代表されるような、苦労もせずに与えられた平和の中で平気で文句を言える、そういう育ちの子たち、すべてが憎いのだ。


たぶん他人との関係性で感じる汚くてどろどろした気持ちは、恋愛かどうかとか男女のどちらかだとかって、あんまり関係ないんだと思う。
そして、そういう普遍的なものを直視して言語化するのってめちゃくちゃキツいと思う。
島本理生に好感を持てるのは細かい仕草や動作の描き方がとても丁寧なところ。感情って事件とか言葉だけじゃなくて、本当にしょうもないことが影響するんだと思うから。
使おうと思ったらティッシュが空だったとか、今日はコーヒーが開けたてだからいつもよりおいしい気がするとか、そういう。
ひたすらに「女々しい」んだけどその女々しさって、男の人のなかにもおそらくあるんだと思うな。


おんなってすげえな…と思いたい人におすすめ。読むなら、秋から冬がいいと思うな。
もっと激しいのが読みたかったら次は「ナラタージュ」をどうぞ。こっちのほうが荒削りで痛いです。
このひとの小説を読んでなにを感じるかって、けっこう個人的に気になります。
絶対にいらいらすると思う。そのうえで、感想を知りたくなる。
新刊も読みたいのだけど、Amazonのレビューが悪いので、そうかあ、と思っているところ。