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「ぼくはふみちゃんと仲がいいことが自慢なんだ」/『ぼくのメジャースプーン』(辻村深月)

辻村深月はずっと気になってる作家だったのだけど、いまいちタイミングを逃していたのです。
この前行った本屋さんでうろうろしてたら文庫が並んでいるのを見て、
Twitterで「どれから読んだらいいかな?」と聞いたら、
何人かリプライくださったすべてのひとがすすめてくれたのでこれにした。


とにかく彼女は、タイトルのセンスがとてもいいと思う。
わたしは森博嗣好きなのでメフィスト賞受賞作の名前はいつもなんとなくチェックしてて、
『冷たい校舎の時は止まる』というデビュー作の名前も覚えてる。
読んでないのに頭に残ってる、というのは、すごく大事なことなわけですよ。
そのあとの作品名はこんな感じ。
『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『スロウハイツの神様』
『名前探しの放課後』『ロードムービー』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
彼女のバックグラウンドはなにひとつ知らないけど、
児童文学や物語をそうとう読んできたひとじゃないかな、という気がする。
本の表紙の雰囲気も含めて。
読む前からわたしのなかでは恩田陸と同カテゴリだったんですけど、読後もその印象は変わらないです。


そして肝心の中身ですが、もっとミステリ寄りなのかと思ったら、違った。
もっとなんというか…「あああああそうだよねええ…!!」って感じでした。
うまく言えない!でも誰しも身に覚えのあることがいっぱいだと思うよ!
ヨーグルトみたいな文章、と思った(この感覚はどのくらいのひとにわかってもらえるか不明)。
あらすじに関してはAmazonのレビューとかどうぞ。ここにはもっと個人的な感想を書く。


子どもを子ども扱いしないで物語をつむぐのは多分そんなに簡単なことじゃないんだよなあ。
とても上手だった。宮部みゆきも、少年の書き方上手。
主人公は小学4年生なんだけど、10歳って、大人が思うほど子どもじゃないんだよね。
ちゃんと考えてるし周りを見ているし判断もできるし、嘘もつけるんだ。
その描き方がすごくよかった。終始そのことに安心してた。


あとは「ふみちゃん」の描写がすばらしすぎる。胸にせまる。第一章でやられます。
小学2年生や4年生の少女に“感情移入”できるってよく考えたらすごい。
窒息しそうに狭い世界と関係とか、コミュニケーションの開き具合とか、造形がちゃんとしてる。
個人的に身につまされる部分、生々しく思い出せる感覚がいくつかあったのもあるね…。
プロフィールで知ったのだけど、辻村深月さんは教育学部卒業だそうです。
その感じ、とてもよくわかるよ。なるほどなって思う。あっちとこっちの世界がつながってる。


あえて物語の筋に関係のない大人目線で行くと、数箇所出てくる、秋先生と「ぼく」の問答シーンがとってもいい。
書くとネタバレになってしまうから控えるけど、答えの不確かな問題を一緒に考えるということに関してすごくいい課題設定とテンポだと思う。
わたしはいとこが10歳年下なんだけど、絶対に子ども扱いしてごまかさないように話そうって思って
自分が小学生の頃から今までずっと接してきているから、かなり参考になった。こうやればいいんだ。
ゆとり世代(…)の新人の教育に苦労してるみなさんとか、
いまいち後輩にどう教えたらいいかかわからない学生団体のみなさんとか、発見があるんじゃないですかね。うん。


わりと分厚い文庫(500ページくらい)だけどさくさく読めた。
台詞回しもいい意味でシンプルだし「ゲーム」のルールも丁寧に書いてくれているので、すっと読めるはず。
あーなんかどっぷり小説読みたいなー、という気分(まさに買った時のわたし)にはぴったりだと思うな。
舞台が小学校だしね!!まあ非現実ですよ!
それでもリアリティはあるというバランス感。